組曲虐殺 ★★★

組曲虐殺
2009年 天王洲 銀河劇場
NHKBShi プレミアムシアター
作■井上ひさし 美術■伊藤雅子 照明■服部基 音楽■小曽根真 演出■栗山民也
出演■井上芳雄高畑淳子石原さとみ、神野三鈴、山本龍二山崎一

■このゴールデンウイークの目玉、井上ひさしの遺作である音楽評伝劇。東京で生舞台を観たかったのだが、NHKのおかげで遂に鑑賞できた。井上ひさしの急逝は少なからずショックだったよ。あと10年くらいは新作舞台を見せてくれるものと信じていたからね。

■でも、作品の出来としてはいまひとつ感心しかねる。音楽と生演奏に小曽根真を迎えて、音楽性は非常に高まっていて、その意味では密度が高いのだが、小林多喜二の評伝としては彫り込みが足りないという気がする。3時間という長尺にしては、小林多喜二の短い人生の見せ方に細工が足りないのではないか。

井上芳雄という若い俳優は初めて見たが、実際若手らしい熱演はすがすがしい。姉と田口タキを高畑淳子石原さとみが演じ、かなり多くの部分、下手をすると多喜二以上に多く登場するのだが、この部分が単純にあまり面白くないというのも辛い。

山本龍二山崎一が徐々に多喜二に影響されてゆく特高警察を演じて劇空間を引き締めてくれるのだが、エピソードとしては特に優れたものではない。
■つまらんことを付記すると、冒頭の「代用パン」のエピソードが、「太陽パン」に聞こえてしまうのだが、これも説明的なフォローが必要ではないか。「代用パン」なるものは、今の一般の観客には具体的にイメージできないはずだ。本屋で戯曲を読んではじめて分かったよ。

■さらに蛇足を記すと、千田是也が多喜二のデスマスクを作ったらしい。千田是也は、映画ファンには東宝特撮の、やる気の感じられないヌボーっとした科学者役しか思い浮かばないが、新劇界の重鎮で、関東大震災の際の朝鮮人虐殺事件の目撃者として、”千駄ヶ谷のコリアンを忘れるな”との思いを込めて芸名をつけたという筋金入りの左翼なのだ。東宝特撮といえば、木村武こと馬渕薫も逮捕経験のある共産党員だったわけで、なかなか左翼陣営とは縁が深いのだが。

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