妖星ゴラス ★★★★

妖星ゴラス
1962 スコープサイズ 88分
LD
原作■丘美丈二郎 脚本■木村武
撮影■小泉一 照明■高島利雄
美術■北猛夫、安倍輝明 音楽■石井歓
特技監督円谷英二 監督■本多猪四郎

■60年代初頭は東宝特撮の黄金期で、ミニチュアセットのスケールとボリューム、本編セットのこれ見よがしの巨大化が頂点に達するのだが、本作もその一角に位置するSF超大作。なのに、たった88分というのが当時の映画界の良識。所謂人間ドラマはほぼ無くて、それでも地に足の着いた語り口で大状況をサクサクと紐解いてゆく。「人間」は描かれていないが、地球の迎えた危機に「人間たち」がどう対処したかということは、しっかりと描き込まれている。特に前半ではお金の問題を堂々と扱っているのが木村武(馬渕薫)ならではの視点で、大状況にも人間味を失わないリアルな作劇が傑出している。

■今回久しぶりに見直して気づいたのは、導入部でゴラスに墜ちてゆく隼号の乗組員が万歳と叫ぶ悲愴なシーンが、終幕の南極基地での地球移動作戦の成功を喜ぶ万歳と対置されていること。同じ万歳にしても、その人数と状況が対照的で、隼号の悲劇と自己犠牲の意味を重く問いかけてくる。水野久美のフィアンセが隼号副艇長として死んでいるのだから、ラストはそのことを思い出してあげないといけないのだが、本作はその点、非常に能天気で楽天的な姿勢で終わってしまう。隼号事件の遺族である白川由美水野久美の決着は、ひょっとすると準備稿段階では存在したのではないかと勘ぐっているのだが、真相やいかに。普通脚本家ならそこは気になるはずだから。

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