おとうと ★★★

おとうと [DVD]
おとうと ニュープリント銀残し版
1960 スコープサイズ 96分
NHK BS2録画
原作■幸田文 脚本■水木洋子
撮影■宮川一夫 照明■伊藤幸夫
美術■下河原友雄 音楽■芥川也寸志
監督■市川崑

NHKが、角川映画に残っていたネガをもとに東京現像所で当時の銀残しの効果を再現しようと試みた技術実験の成果。しかし、おおまかに見ればLD発売版の色調と大した変わりはない。DVD版は未見だが、似たようなものではないか。その昔、京都文化博物館で観たプリントはいかにも褪色の激しいフィルムといった風情で、銀残しで色を抜いたというよりも、ただの普通に褪色したカラー映画に過ぎなかったが、今回はパッと見で、いかにも今風の銀残しの仲間だなと理解できる程度に渋いルックに仕上がっている。
■ただ、今回は映像の解像度が素晴らしくアップし、室内シーンの独特の暗さ(というか意図的に暗すぎなのだが)と光のあたった部分とのコントラストが綺麗に成り立っている。大映東京の画作りの特色は、セットの壁の塗りの独特の凹凸を照明でリアルな陰影として強調するところにあるが、本作も病院の塗り壁の質感などに顕著である。
■物語として面白いのか、当時の市川映画のレベルから考えてどうなのか、という印象は変わらないのだが、岸恵子の演技は素晴らしいし、田中絹代の鬱陶しい継母っぷりのリアリティは本当に凄い。こうした役割的に単純化されない人間像を描けるところが、往年の日本映画の凄さだ。

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