感想（旧HPより転載）
妻に先立たれた父親（佐分利信）と妹（野添ひとみ）と同居すワーキングガール（若尾文子）には父親の決めた許嫁（菅原謙二）がいたが、仕事優先で結婚の意志のない彼女は、親友（京マチ子）に頼んで約束の破棄を伝えてもらう。
ところが、菅原に一目惚れした京マチ子は、血の繋がらない兄（船越英二）からの求婚を退けて、若尾に頼み込んで許嫁を譲ってもらう。一方、近所に住む若者で、若尾に恋心を抱いてつきまとっていた川口浩は妹の野添と結婚してしまう。父親への気兼ねから恋をのがしてしまった若尾だが、彼女の表情に曇りはないのだった。
娘の結婚を促すために父親が自分の再婚話を捏造しようとするところなど、小津安二郎の「晩春」などをおもわせる、ありがちなホームドラマなのだが、そうした抒情的な展開もそつなく盛り込みながら、「犬神家の一族」以降に顕著となるグラフィックなケレン味や説明的な語り口に堕落する以前の、つまり妻であり名コンビの脚本家・和田夏十のコントロールが効いたこの時期の市川崑ならではの理知的な作風が堪能できる。
若尾文子には後年の増村保造とのコンビ作に見られるような濃厚なエロティシズムの成熟は感じられないが、彼女にしては珍しい（？）キャリア・ガールをのびのびと演じている。ただし、演技的にはまだかなり未熟だが。
一方、若尾とは同じ女子大学出身で、大阪の古い暖簾を守るやり手の女将・京マチ子が、生きのいい関西女を余裕の好演。さすがに若尾との年齢差は歴然ですが。
また、京マチ子をずっと慕ってきて、いずれは結婚できるものと思いこんでいたのに、あっさり袖にされてしまう船越英二がコメディリリーフを快演して、傑作。「黒い試走車」「白い巨塔」の気弱な男路線もあれば「怪談蚊喰鳥」「盲獣」の不気味な男路線もあり、こうしたコメディ路線もある。この人の芸域は果てしなく広い。もっと正当に評価されるべき性格俳優だ。
導入部分にはまだニューフェイス時代の（？）田宮二郎も、若尾の勤める自動車メーカーのサラリーマン役で出演している。
（９８／５／２２ 京極弥生座１ スコープサイズ）
