『穴』

基本情報

穴(’57)
脚本・久里子亭
撮影・小林節雄 照明・米田勇
美術・下河原友雄 音楽・芥川也寸志
監督・市川崑

感想(旧HPより転載)

 女性記者・京マチ子は1ヶ月間失踪して、読者に発見されるかどうかという懸賞企画を雑誌社に持ちかけ、姿をくらますが、折しも業務上横領計画を練っていた銀行の支店長・山村聡、部下の船越英二らがそれを知り、1ヶ月後に姿を現した彼女に犯罪の嫌疑を転嫁させようと謀る。しかし、3人組のひとりが殺され、殺人の嫌疑をかけられた京マチ子は、横領された現金の行方を追ううち、犯人グループの仲間割れに気づき、犯人らしき山村聡の家へ踏む込むが。

 何とも複雑な趣向が入り交じった犯罪コメディだが、当時の大映の、いや日本映画界のトップ女優であった京マチ子の、例えばO・ヘップバーンの「シャレード」にも似た華麗さ、ではなく、むしろ奇妙な変装ぶりのコミカルさを狙ったというのは、さすがに市川崑としても捻りすぎた企画ではなかったろうか。ひねくれたコメディとミステリとサスペンスが水と油のように分離し、当時の観客も混乱したであろうが、市川崑の遊び心が不格好に横溢した、今日観てもやはり掴みどころのない作品である。

 新進作家崩れのクラブ歌手で石原慎太郎が特別出演し、売れない週刊誌の編集長で潮万太郎が朗らかな胡散臭さを発散する。

 ラストで殺人の動かぬ証拠を突き付けられた船越英二が、警察署の窓からダイナミックな投身自殺をはかるシーンは、後に増村保造の「黒の試走車」のラストで同じ役者が再び演じることになるシーンと瓜二つであり、船越英二が西の市川雷蔵にひけをとらない自殺マニアであったことが判明する。(ほんまかいな?)
(98/8/26 V スタンダード)

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