焼肉ドラゴン ★★★★

焼肉ドラゴン
NHK教育 芸術劇場
2008年 新国立劇場
作■鄭義信 演出■梁正雄、鄭義信 美術■島次郎 照明■勝柴次朗 音楽■久米大作
出演■高秀喜、朱仁英、千葉哲也粟田麗占部房子、若松力

■1970年、伊丹空港近くの国有地を不法占拠している在日スラムの焼肉屋を舞台に、在日一家の歴史だけでなく、普遍的な名もない庶民の地道な暮らしとその哀歓をたっぷりと描きこんだ傑作舞台。昨年、様々な演劇賞を独占したらしいが、誰も文句をつけようが無い説得力がある。

■今日に残る在日スラムといえば、宇治のウトロ地区が有名だが、伊丹空港の北西にも在日スラムが実在したようだ。トタン屋根の連なるスラムの情景を実に的確に切り取った美術装置(1杯)が非常に秀逸。

■ある在日一家が離散してゆくまでを猥雑な笑いと情感で綴り、ラストの夫婦の姿は、ここ暫く味わったことの無い寂寥感を味わわせてくれる。何故か「傷だらけの天使」のラストを思い出してしまったのは、リヤカーのせいだ。

■配役も、若手が力演し、特に占部房子を始めて知ったが、ベストワンは、なんと言ってもオモニ役の高秀喜(コ・スヒ)だ。そのリアルな存在感は、他の全てを圧倒する。大きな世の中の動きに押し流されながら、それでも流れ着いたところに根を下ろして生を紡いでいくしかない、いじましくも逞しい庶民の生活史に対する全ての感慨を、この女優が完璧に体現しているからだ。

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