バッシング ★★★☆


バッシング
2006 ヴィスタサイズ 82分 @DVD
脚本■小林政広
撮影監督■斉藤幸一 編集■金子尚樹
監督■小林政広

イラクでボランティア中に人質となり救出されたものの、故郷で近隣住民のバッシングに追い詰められてゆく主人公を、苫小牧ロケで、スケッチ風の演出で描いた、しかしシリアスな小品佳作。正直なところ、こうした素材を十分に劇化できているとは思えず、テーマの彫りこみ、膨らませ方、ともに勿体ない感を否めないが、それでも本作は本作なりの魅力を湛えている。

■そのひとつは主演の占部房子のキャラクターであり、にっかつからピンク映画まで低予算映画を中心にメジャー映画まで手掛ける大ベテラン斉藤幸一の柔軟なキャメラワークである。

■澎湃として”自己責任”論が巻き起こり、島国に小さく閉じこもろうとする日本人の体質と、弱者を鞭打つ残酷さが、日本人に自己嫌悪を催させたあの事件を劇化するには、構えが小さすぎるだろう。大きな主題を家庭劇に構成する方法論は正攻法だが、ヒロインの父親が田中隆三では家族関係の説得力が弱いし、義理の母親の大塚寧々と占部房子が並ぶと、占部のほうが老けて見えるという配役の疑問もあり(やつれているという狙いか?)、ドラマの構築としてはちょっと厳しい。

■しかし、コンビニのおでんに対するこだわり、その異様な食べ方のなかに、故郷(北海道であり日本でもある)を世界の中に閉じ込める海(あるいは海的な存在)に対する反抗心を託した見立ての奇想には感心した。というか、おでんの出汁に対するこだわりに、海を飲み干して、封鎖された世界、抑圧する環境から解放されたいという生理的な願望を見出したのは、こちらの妄想なのかもしれないが。でも、この映画でもっとも記憶に残るのは、この繰り返される場面に違いないのだ。

■そして、まさか小林政広が「帰ってきたウルトラマン」を観ているとは思えないが、主人公がここではないどこかに希望を求める(あるいは逃避する?)この映画の印象は「怪獣使いと少年」と瓜二つである。それは、コンビニで買ったおでんを踏みつけにされる場面からして、血が滲むような切実さで両作は共鳴しているのだ。

参考

占部房子は舞台の印象が強いなあ。特に『焼肉ドラゴン』ですが、他にもけっこういろいろ観てます。


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