ウォッチメン ★★★☆

ウォッチメン (字幕版)

ウォッチメン (字幕版)

  • ローラ・メンネル
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WATCHMEN
2009 スコープサイズ 163分
ユナイテッドシネマ大津(SC1)

■スーパーヒーローの活躍でベトナム戦争に勝利し、ニクソン大統領が3選され、自警団活動が非合法化された架空のアメリカの1985年、政府のダーティーワークに深く関与した”コメディアン”が何ものかに殺される。その謎を追う”ロールシャッハ”は、罠にはまり警察に逮捕され刑務所送りになってしまう。一方、”Dr.マンハッタン”が失踪したことで、米露のパワーバランスが崩れ、核戦争の危機が迫ってくる・・・

■物語の大枠自体は、非常に単純で、謎解きとしては呆気なすぎるので、映画の正統的なストーリーテリングとしては「ダークナイト」のほうが、圧倒的に勝っている。基本のアイディアは、「アウター・リミッツ」の傑作エピソードをそのまま援用している。バイオレンス描写はいかにもアメリカン・テイストで、腕はチェーンソーで切り落とされるし、手足の骨はボキボキと小気味よく折れに折れる。ヒロインのマリン・アッカーマンスウェーデン出身らしいが、いかにもアメリカ好みのゴツイ顔立ちで、

■本作の見所は、物語自体よりも、登場するスーパーヒーローたちのそれぞれのエピソードとアメリカの現代史が密接に絡み合い、政治と性事が綯い交ぜになりながら、結局は自警団に過ぎない生身のヒーロー像を赤裸々に解剖してゆくところにある。だから、一本の映画としては、かなり歪で、駆け足で、ダイジェスト的な印象になってしまう欠点は否めない。ドラマとしてのコクは少ない。

■それでも、キャラクターとしては魅力的で、Dr.マンハッタンが火星で生命の奇跡を悟る場面など、VFXは陳腐だが、アイディアとしてはいい(まあ、人間40年くらいやっていると誰しも自然と思い当たることではあるが)し、狂言回し的に登場する”ロールシャッハ”が、地獄のような無残な事件に遭遇して「世界を作ったのは神じゃない。世界をつくったのは人間だ。」と悟るあたりも、実に腑に落ちる(こちらもある程度人間やっていると誰しも感じるところですな)。特にロールシャッハは、単なる性格破綻者では済まされない渋い魅力があり、その誇り高い最期まで、真のヒーロー像を体現している。一方で、アメリカの政治体制の維持のために喜劇を演じさせられる”コメディアン”も、アメリカのばかばかしさと愚かさと乱暴さを体現しながら、それでも実にカッコいい。ある意味で男の願望をストレートに体現した存在であり、それこそが”アメリカ的”ということであることを発見させてくれる。

■基本的には普通の人間がコスプレして自警団をやっているというのが、ここでのスーパーヒーローの定義なのだが、だとすると彼らの異様な強さの意味がわからなくなる。ミュータントであるDr.マンハッタンが強いのは分かるが、それ以外のヒーローたちは、ただの独善的で暴力好きのコスプレマニアなので、彼らをリアルに描写しようとすれば、嫉妬したりセックスしたりすることよりも、端的に弱いということを表現すれば足りるのではないか。骨折するとか、病気になるとか、時々悪人に負けるとか、リアルに考えれば、そういうことではないかという気がするが、どうも基本的な設定に対して、終始違和感が拭えない映画だ。しかし、いちばん問題なのはユーモアの欠如ではないか。

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