婦系図 ★★★

婦系図
NHKBS2録画
2008 新派120周年記念公演 新橋演舞場 
作■泉鏡花 演出■大場正昭 補綴■齋藤雅文
出演■波乃久里子水谷八重子片岡仁左衛門、紅貴代、安井昌二

■映画版は観ていたが、舞台版は初見。お話自体もコテコテによく出来ているので、約3時間の長丁場だが、最後はちゃんと泣かせてくれる。役者の演技のアンサンブルとしては、かなり疑問があり、片岡仁左衛門はそのまま歌舞伎演技だし、旧派(歌舞伎)に対する新派としての二枚目演技というものは、いったいどうなったのか?という気がする。そうしたところに新派の難しさがあるのだろう。
■お蔦を波乃久里子、小芳を水谷八重子(二代目)が演じるが、芸者の意気地を艶っぽく演じきれたかというと、これもかなり疑問。お話の面白さで飽きはしないが、むしろ女形のほうが色気がありはしないか。波乃久里子の場合、存在感が男っぽい印象なので、特に違和感が強い。水谷八重子(二代目)の役どころは、それこそ杉村春子が演じるような、ヒロインの後ろ盾でもあり、わが子に母と名乗ることができない芸者の悲劇の体現者でもある役柄だが、正直まだまだといったところ。
■身分や差別が強固に残っていた時代に、そのしがらみの中で、その枠組みの中で、枠組みを呪うことよりも、所与の条件の中で、女として、芸者としての道義に忠実に生きることを誇りと考えた女たちの生き方の中に、男には考えられない逞しさと美しさを見出した作劇の強靭さはよくわかったのだが、新派という演劇様式のあり方には、かなり危機感を感じた芝居だった。
酒井俊蔵を演じる安井昌二の演技が結局一番の見所だったが、これは映画でも千田是也が演じたりして、実に見事な明治の大人像を見せてくれたが、なによりも本がよく書けている、台詞が素晴らしいということだろうか。

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