「風間杜夫ひとり芝居」★★★★

風間杜夫ひとり芝居
NHKBS2 ミッドナイトシアター
作・演出■水谷龍二
出演■風間杜夫

■「カラオケマン」「旅の空」「一人」「コーヒーをもう一杯」「霧のかなた」の5本からなる牛山明SAGAを風間杜夫が一人芝居で演じる佳作。予想以上に面白い。三波春夫の長編歌謡浪曲俵星玄蕃」を大々的にフィーチャーした着眼が凄い。

■印象深かったのは、とにかく風間杜夫の熱唱が痛快な「カラオケマン」、時代劇、特に錦之助の股旅映画への偏愛を語る「一人」、「俵星玄蕃」が失われた記憶を呼び覚ます「霧のかなた」の3つのエピソードだ。

風間杜夫の演技は年齢とともに、かつての鋭さを失っていると考えていたのだが、そのキャラクターの軽みが大衆演劇や落語や時代劇映画といった大衆芸能の広汎な素養をベースに円熟の時期を迎えていたことに驚かされた。まあ、この演劇を通して観て少なくとも何の感慨も沸かない人間はいないであろう、という意味で名作といえるのではないか。

三波春夫の「俵星玄蕃」はなにしろ完成度が高すぎて、かえってリアルな感動よりも額縁入りの骨董品という印象になってしまうのだが、平凡な安サラリーマンがカラオケで熱唱するという設定で風間杜夫が演じ、歌い上げると、そこに込められた思いの切実さ、あるいはその空虚な熱意というものが観客の気持ちを揺さぶるから不思議だ。


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