台所太平記 ★★★☆

台所太平記
1963 スコープサイズ 110分
BS2録画
原作■谷崎潤一郎 脚本■八住利雄
撮影■岡崎宏三 照明■榊原庸介
美術■伊藤憙朔 音楽■團伊玖磨
監督■豊田四郎

 戦後の谷崎家に出入りしたお手伝いさんたちの姿を年代記風に描き、日本の戦後女性史を試みた意欲作。やや図式的に流れた印象もあるが、豊田四郎の演出としては肩の力の抜けたスケッチ風のタッチが快く、軽妙な文芸映画になっている。DVDは発売されていないはずだが、画質は非常に美しい。

 森光子、乙羽信子京塚昌子淡路恵子水谷良重池内淳子、団令子、大空真弓中尾ミエといった風に倫理観も自己主張も時代相の変化とともに変動してくるところが見所だが、豊田四郎の演出とベテラン女優陣の演技合戦がこってりとした味わいを醸し出す。

 特に、ネコの様な摺り足で森繁にまとわりつき低音で怪しげに囁く不気味なお手伝いさんを演じる淡路恵子が圧巻で、しかもレズビアン水谷良重と洗濯物の陰などでいちゃつく謎の女を技巧的に演じ切っている。豊田四郎の演出も抑制の効いた間接描写で、まるで「レベッカ」のダンバース夫人のようだ。これらの場面は怪奇映画の呼吸で演出されており、そういえば豊田四郎には東京映画で撮った「四谷怪談」があったことを思い出す。

 あまり回顧もされない映画だが、意外な女性映画の佳作である。


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