落語娘 ★★★★

落語娘
2008 ヴィスタサイズ 109分
京都シネマ
原作■永田俊也 脚本■江良至
撮影■田中一成 照明■東田勇児
美術■松宮敏之 音楽■ 遠藤浩二
特殊視覚効果■泉谷修
監督■中原俊

■大味な大作映画でお茶を濁す夏休みが終わり、やっと秋になって、映画界も実力派の良作が集中的に公開される時期に入った。「おろち」も傑作だったが、本作も娯楽映画としては全く引けをとらない小傑作だ。怪談映画、怪談落語ファンは絶対に必見。日活の配給なので公開劇場が少ないが、同好の士は万難を廃しても劇場に駆けつけるべきだ。

■女だてらに落語好きが高じて破天荒な師匠(津川雅彦)に弟子入りした主人公(ミムラ)の視点から、テレビ局の後ろ盾で、演者が必ず死ぬという禁断の噺「緋扇長屋」を復活させて師匠に語らせるという企画の顛末が描かれてゆくのだが、クライマックスは堂々たる怪談噺「緋扇長屋」を劇中劇で再現しながら展開する、立派な怪談映画になっているのだ。しかも、この怪談噺の出来がなかなかよろしい。

■本作は舞台は東京だが、東映京都撮影所が使用され、映画村のオープンセットがほとんどそのまま映し出される。もちろん、低予算ゆえだが、こんなところで死に絶えたかと思われた怪談が映画で観られようとは、感無量だ。この劇中劇の部分は無名の若手俳優によって演じられるのだが、そのセットも含めたチープさが在る意味で新東宝っぽさを醸し出している。

■前半はヒロインのミムラを溌剌と描き出して、一般観客を物語の世界に誘い込み、後半はみっちりと怪談噺にまつわる曰く因縁を見せて、怖がらせながらサスペンスを生み出してゆく脚本は、かなりよくできており、ヒロインに啖呵を切らせるあたりは段取りが性急な印象だが、全体のエピソードのバランスを考えると、やむを得ない選択と納得はできる。監督は懐かしの中原俊で、映画はコンスタントに撮っているのだが、劇場で中原俊の映画を観るのは、実に「12人の優しい日本人 」以来だ。もはや大ベテランなので、腕前は確かなもの。安心して観ていられる。しかし、考えてみれば、もうひとつの落語映画「しゃべれども しゃべれども」と監督は本来逆になるはずだよね。普通に考えれば、本作は平山秀幸のための企画だよ。

■とにかく、快調なテンポで、きびきびした芝居で全体を引き締める演出と、それに応えた役者たちの好演は見ごたえがあり、とりわけ津川雅彦は本作成功の鍵だ。対する益岡徹は完全に貫禄不足で気の毒な感じだよ。これはミスキャストだ。

■くすんだ木々の緑色とか、全体に浮いた暗部の表現、劇中劇の色を強く出した色彩設計のビデオ的な毒々しさ、協力にパナソニックとクレジットされていた点などを総合して、ヴァリカム撮影と判断したが、如何だろうか。「おろち」などに比べると、キャメラは至って平凡で、特に優れた点はないが、とにかく演技に集中して観ていられるから、それはそれでいいのだ。VFX、というかCGの使い方はあまり巧くなく、さすがに安っぽい。

■製作はポニー・キャニオン、日活、衛星劇場テレビ東京ほか、製作はエクセレントフィルム。配給は日活。


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