百万円と苦虫女 ★★★★

百万円と苦虫女 [DVD]
百万円と苦虫女
2008 ヴィスタサイズ 121分
京都シネマ(SC2) 
脚本■タナダユキ
撮影■安田圭 照明■石田健司
美術■古積弘二 音楽■櫻井映子、平野航
監督■タナダユキ

■些細なイザコザが刑事事件となり前科者となった娘(蒼井優)は、実家を出てバイトで百万円貯まると次の土地へ移るという流浪の生活を始める。海の家、桃栽培の農家と転々とし、そしてとある地方都市でバイトの先輩(森山未来)と親しくなるが・・・
タナダユキという女性監督は「タカダワタル的」を撮った人らしいが映画を観るのは初めてだ。社会を漂流してゆく娘が、おそらくはじめての恋に流れ着くまでの顛末をヴィヴィッドに綴った青春映画の佳作である。西川美和よりも、タナダユキのほうが作劇的にも演出的にもしっくりと腑に落ちる気がする。
■ある意味では木枯らし紋次郎的な主人公なので、このままどこまでも流れ続けてほしいと思わせるところがあるのだが、彼女の漂流と、彼女を軽蔑していたいじめられっ子の弟の交流が作劇的には肝になっており、クライマックスで気持ちよく泣かされる。森山未来とのロマンスは、ちょっと奇麗事に作りすぎのようにも思うが、ラストの幕切れが上手いので責める気にはなれない。
■些細な行き違いで前科者に仕立てられ、世間から指弾されるという構図を、いまどき珍しいほど露骨な表現で見せるあたりは、まるでアクション映画の表現のようでもあり、案外アクション映画を撮れる監督なのかもしれない。ニートやフリーター、ワーキングプアといった今日的な事象をテーマとしながら、自分探しという解釈を退け、やっぱり何かから逃げているんじゃないかと問いかける問題提起の仕方も悪くない。そしてなによりも、あるときは颯爽、毅然とした言動を見せながらも、やはり迷いや躊躇いを隠し持つ主人公の人間像の未成熟な魅力を、可愛らしく演じて肉体化した蒼井優の存在感がこの映画の生命線であろう。他の女優が演じていれば、相当雰囲気が違ったものになっていただろう。蒼井優のセックスを感じさせない少女的な雰囲気が、前科者という烙印をよく際立たせている。
■映像表現については、とにかく安田圭のキャメラワークが抜群で、世間様と鋭く対立する姉の姿を目撃した弟と気持ちを通わせる長回しの場面や、森山未来蒼井優を追いかけて好意を告白する場面の長回しなど、滑らかな移動撮影の安定感と手持ちの躍動感のメリハリのつけ方が絶妙で、最近観た日本映画のなかでは突出している。
■製作は日活、ポニーキャニオンほか、制作は日活撮影所。

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