宝塚大劇場 星組公演
潤色・演出■小池修一郎 脚本■ナン・ナイトン 作曲■フランク・ワイルドホーン ■ 音楽監督&編曲■太田健
主演■安蘭けい(パーシー)、遠野あすか(マルグリット)、柚希礼音(ショーブラン)
■第一部はなかなかボリュームたっぷりの傑作で、お腹一杯って感じだが、第二部は単純な活劇に収拾しようとするあまり、消化不良で失速する。小池修一郎とフランク・ワイルドホーンのコンビは「NEVER SAY GOODBYE―ある愛の軌跡―」が素晴らしかったので、今回も期待していたのだが、今作は基本的に西洋チャンバラという捉え方をしているため、ヒーローたる安蘭けいを颯爽と描くところに焦点が絞り込まれ、脇役たちは少々役不足という印象だ。
■特に勿体無かったのは、貧困階級出身でフランス革命の先陣を切って活躍するも、革命成功後はジャコバン党のロベスピエールによる恐怖政治の走狗として必死に生き抜こうとするショーブランの存在であろう。第一部でマルグリットとの因縁を絡めて三角関係を浮き彫りにしてゆくあたりはドラマ的には最も高揚する場面で、特に革命初期に革命の女戦士として共に戦ったマルグリットが、あの頃の少女の心=革命の理想(幻想?)を取り戻すことを願って切々と謳いあげる場面は涙なくして見られない名場面だ。革命の理想は旧支配階級に対する復讐心に取って代わられ、フランスはギロチンの恐怖の前に密告と裏切りが支配する恐怖世界と化した。そんなはずではなかった、革命の理想は幻想に過ぎなかったのか、そう誰よりも深く哀しんでいるのはショーブランであるはずなのだ。今や能天気なイギリス貴族の妻となったマルグリットに、革命初期の熱い理想を呼び覚ますことができれば、革命の夢をもう一度取り戻し、自分も真の生きかたができるのではないか。それは70年代初期に連合赤軍事件として崩壊した学生運動の挫折に対するある世代の想いを代弁しているようにも見える。
■主題歌となる「ひとかけらの勇気」の楽曲も親しみやすく、要所要所で繰り返されるのだが、第二部のコメディ・フランセーズでマルグリットが謳い上げる場面は、もっとじっくりと見せるべきだろう。ドラマ的には実質的なクライマックスのはずなのに、すぐに次の場面に流れてしまうのは残念。総じて第二部は駆け足でドラマを収束してゆくので、第一部の三角関係に期待させた深いドラマ性よりも、西洋チャンバラに期待を込めてゆくのだ。ショーブランも第二部ではほとんど茶化されどおしで、第一部の深刻なマルグリットへの問いかけと揺さぶりはほとんどはぐらかされどおしなのだ。
■劇場で観ると、音響や特に照明の立体感には感動するのだが、役者の細かい表情が読みとれないのでストレスが募る。基本的に舞台よりテレビ中継の方が好きなのだ。主役の安蘭けいの姿形の美しさも、テレビ中継で改めて堪能させてもらうことにしよう。しかし、歌唱はバッチリですよ。柚希礼音は少し力押しという部分も気になったが、遠野あすかは貫禄を感じさせる歌声で堂々たる娘役。「ひとかけらの勇気」を唄う場面は、演出的にもう一工夫ほしいところだが。小池修一郎の演出は、大勢の生徒が入り混じるスペクタクル場面の厚みに得がたい楽しさがあり、ミュージカル舞台ならではの醍醐味は保証できる。