狼少女
2005 ヴィスタサイズ 106分
DVD
原案■大見全 脚本■大見全、小川智子
撮影■石山稔 照明■鳥越正夫
美術&装飾■黒須康雄 音楽■崎谷健次郎
監督■深川栄洋
■70年代前半、小学生たちの間ではオカルトブームが巻き起こり、神社の祭りに出現した見世物小屋の狼少女に興味津々。同じクラスの秀子は、極貧で身なりが汚いことから狼少女と虐められていたが、転校生の留美子はなぜか彼女を庇って、いじめっ子たちに仕返しを果たすのだが・・・
■函館港イルミナシオン映画祭でシナリオ大賞を受賞した脚本の映画化らしいが、物語じたいというよりも、70年代前半の時代をかなりよく再現しており、そのことに感激する。少年たちの身なりもそうだが、顔立ちからして、60年代を引き摺る70年代の情景そのものである。秀子のようなこどもに対するいじめは私も当時直接的に知っているし、それは今日のいじめとは様態が異なるにしても、多分60年代以前から連綿と引き継がれていたものだろう。
■さすがに、当時の見世物小屋がリアルに再現されているのかどうかは不明だが、ある意味で取り扱いの難しい素材を素直な青春映画によく仕立てている。狼少女のメイクも今日のリアルなメイクではなく、どことなく新東宝の「花嫁吸血魔」で池内淳子が演じさせられたという毛むくじゃらな怪物を髣髴させるあたりも、意図的な演出だろう。見世物小屋のおじさんを田口トモロヲが演じているのだが、これは力量不足。芸風が合っていないのだと思うが、この配役にもう少し現実世界の複雑な綾を体臭のように表現できる役者を据えられれば、映画の格がもっと上がったはずだ。
■中盤に訪れて少年をイノセンスな世界から現実世界に組み入れてゆくキッカケとなる残酷な真相は、観てのお楽しみ。というか、主人公の少年と一緒に衝撃をもって受け止めて欲しい。映画のラストは定石どおりで、もう一撃、テーマに深く鑿を穿って欲しいところだが、商売のことしか心にないハリウッド映画やテレビ局主導の日本映画にはみられない誠実な表現は観るものの心をちゃんと打つことができるのだ。この作品は、製作規模を大きくすると、とたんに表現の切実さが失われてしまうだろう。超低予算映画ならではの快挙といえる。日本映画の品質の生命線はそうしたところに在るのだ。
■製作はオメガ・プロジェクト、バサラ・ピクチャーズ、制作は、バサラ・ピクチャーズ。