「花と爆弾」

花と爆弾―人生は五十一から〈6〉 (文春文庫)

花と爆弾―人生は五十一から〈6〉 (文春文庫)

 おなじみ小林信彦の時事的エッセイ集、第六弾。2003年に起こったことを思い出させてくれます。
 今回は「3・10を忘れない」と「3・10を忘れない(続)」が貴重。1945年3月10日の東京大空襲を経験者の視点から、といっても筆者は埼玉県に集団疎開中だったので直接に惨事に巻き込まれた訳ではないが、この決して忘れてはならない大量殺戮のあらましを伝えます。映画では東宝で用意された「東京大空襲」のシナリオが没になってしまったので、今井正の遺作「戦争と青春」を俟つことになるのですが、ほとんど記憶に残っていないので、映画としての出来栄えは推して知るべしというところです。ただ、この映画は、幻の「東京大空襲」の雪辱戦といった面持ちがあり、原作者の早乙女勝元自身が脚本を担当している点が気を引きます。
 ブッシュ大統領イラク戦争への傾斜の仕方に、60年以上前の東京大空襲の記憶を呼び覚ますというのは、”歴史に学ぶ”という姿勢の正攻法のあり方といえましょう。こうした立場から、日本は世界(中心はアメリカですが)の狂騒を諌める立場に立つべきなのに、いつまでたってもアメリカの飼い犬の立場に甘んじようとする政治的現状は、まったく嘆かわしいことです。

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