憑神 ★★★☆

憑神
2007 ヴィスタサイズ 107分
TOHOシネマズ二条(SC2)
原作■浅田次郎 脚本■降旗康男、小久保利己、土屋保文
撮影■木村大作 照明■ 杉本崇
美術■松宮敏之 音楽■めいなCo.
デジタル■春木克己
監督■降旗康男


 幕末、代々将軍の影武者を務める下級武士の次男坊彦四郎(妻夫木聡)はひょんなことから謎の三巡稲荷に参ったことから貧乏神、疫病神、死神に取り憑かれる。徳川幕府の終焉に向けて時代が大きく転換してゆくなかで、神々との対立を通して、彦四郎は自分のなすべきことを悟ってゆく・・・

 木村大作近江八幡の八幡堀に橋を掛けると豪語していた「憑神」が遂に公開された。映画は予想を裏切って、大人向けのウェルメイドなファンタジーである。時代劇なので、落語調と呼ぶのが相応しいのだろうが、面白うてやがて哀しき大人のための寓話であり、東映版「ラスト・サムライ」である。

 まずは原作がよくできているのだろうが、降旗康男の演出を褒めておかなくてはならないだろう。降旗には「遺産相続」という、木村大作とのコンビで、東映京都撮影所のチームワークを生かした軽妙な佳作があるのだが、案外コメディとの相性がよく、今回も例えば山田洋次であれば変に生真面目になってしまいそうな部分を洒脱なタッチでさらりと流し、嫌味にならない程度にラストの感動的な主人公の決断を提示してくれる。その後の浅田次郎のシーンは蛇足だが、主人公が死神の少女との交流のなかで、生きる意味と死ぬ意味を見出してゆく後半の、肩の力の抜けた語り口は実に素晴らしい。政の長を筆頭に無責任体制が蔓延する現代日本に対する皮肉がよく効いたラストの主人公の選択は大人向けの映画に相応しい感動を約束してくれる。

 西田敏行赤井英和の演技はベストとは言いがたいが、死神を演じる森迫永依の引き立て役だと考えると納得できる配役だ。妻夫木聡の演技も、現代劇のように自在な柔軟さを発揮するまでには至っていないが、その透明感のおかげで嫌味が無いのが強みだ。

 八幡堀に半分だけ掛けられた橋は、とことん減価償却されており、テレビ時代劇でも見慣れたロケ地だが、有効に活用されている。逆に大掛かりなステージセットに見えなくも無いところが面白い。死神たちの出入りなどにVFXが使用されているが、画作りがオーバーラップや多重露光しか使えなかった時代の合成といったタッチで、狙いなのかセンスが古いのか判断しかねる。

 しかし、困ってしまうのは、武家社会の終焉を描いたこの映画が東映京都撮影所への、京都の時代劇そのものへの挽歌に見えてしまうところで、現に時代劇の需要が減り、しかも東京近郊での時代劇の撮影環境が整いつつある現状を鑑みると、本当にそうなってしまいかねない危機感がひしひしと伝わってくるのだが・・・

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