日本の黒幕 ★★★

日本の黒幕
1979 スコープサイズ 131分
レンタルV
脚本■高田宏治
撮影■中島 徹 照明■金子凱美
美術■井川徳道 音楽■鏑木 創
監督■降旗康男


日本の黒幕 [DVD]

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 戦後政治を影から操る日本右翼の首魁山岡(佐分利信)は戦闘機機種選定に関する贈賄容疑で逮捕間近だった。屋敷に侵入した若者(狩場勉)は彼を暗殺しようするが果たせず、逆に山岡に見込まれて屋敷に住み込むことに。警察、検察の追及が激化するなか、関西やくざが関東進出を目指して、山岡配下の関東やくざ組織の切り崩しを狙って暗躍を始める。四面楚歌の山岡は国会証言を決意するが・・・
 そもそも大島渚が監督する予定で脚本が練られたが、高田宏治の脚本に納得せず、遂に時間切れで降板し、サルベージ監督降旗康男によって日の目を見た、東映実録路線中でも飛び切りの異色作。これほど露骨に衆道の世界を描き上げたやくざ映画は例を見ないだろう。もちろんモデルは児玉誉士夫で、彼を殺そうとする少年が彼に感化されて一人前のテロリストに成長するというプロットは大島渚の発案だという。実際、「御法度」の予行演習ともいえる、政治的信念と暴力と男色が異様な人間関係を顕し、しかし決して単なる耽美(ジュネ)趣味に堕すことなく、青年に老人の信念が受け継がれてゆく物語を濃密に描き出し、大島渚自身が消えたことで大島的なエッセンスが却って濃縮されて東映映画にありうべからざる異世界を現出させている。その意味では高田宏治大島渚に非常に律儀に義理立てしているように見える。ただ、東西やくざの対立というプロットは、おそらく大島渚は好まなかったであろう。そのあたりに東映ドラマツルギーとの齟齬が生じたのではないかと推察する。成田三樹夫田中邦衛のノリノリの名演は見ごたえたっぷりだが、大島が本来山岡家の家庭劇として構想したものを無理やり外に開こうとしている。
 佐分利信は「儀式」の佐藤慶に相当する日本の象徴として描かれており、ある意味で天皇という存在を戯画化してもいるだろう。異母姉弟を契らせて我が血の純化を願う狂った父親と、彼の信念に心酔しながらやがて父親と気づき、さらに青年テロリストに父親の寵愛を奪われて自滅してゆく田村正和の虚無感の対比も東映らしからぬ煌びやかな作劇だ。松尾嘉代の演技は2時間ドラマそのもので大いに疑問だが、父親に反抗してゆく後半はまるで女吸血鬼のようで、圧巻。特に狩場勉に殺される場面は耽美性も申し分なく、これまた東映映画らしくもないデカダンが画面を支配する。山岡配下の行動隊長をマオカラーのスーツを渋く着こなす中尾彬が演じ、松尾嘉代とは直接の絡みは無いものの、血と性がドラマを刻む家庭劇としては「血を吸う人形」との近似性を感じさせもする。ただ、山岡を裏切った首相を暗殺するラストは作劇的にも演出的にも陳腐で、せっかくの東映映画の勇気ある貴重な試みは成功の域に達することができなかったが、東映映画には珍しい観念性と耽美性はカルト作と呼ぶに相応しい。
 男とも女とも血と肉で繋がろうと欲する日本人の古い心性を体現し、自決を迫られると1億人が間違っているんだと言い放つ稀代のフィクサーの政治と性事が、青年テロリストとの対比によって浮き彫りにされる。これは東映実録映画といよりも、大島の「儀式」や吉田喜重の「戒厳令」といった作品と対置されるべき種類の映画である。
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