あなたになら言える秘密のこと ★★★★

The Secret Life of Words
2007 ヴィスタサイズ 114分
TOHOシネマズ二条(SC4)


 工場で単調な毎日を黙々と働くハンナは働きすぎを注意され、強制的に長期休暇をとらされて、ひょんなことから海上油田の事故で負傷したジョセフ(ティム・ロビンス)の看護を請け負うことに。孤独な男達が集うオイルリグでのジョセフとの交流は彼女の心を次第に開いてゆくが、彼女の抱えた秘密の大きさは皆の想像を絶するものだった・・・

 女性監督イザベル・コイシェの「死ぬまでにしたい10のこと」はいかにもガーリーな、ちょっとアートっぽい映像表現と、過酷な運命を柔らかく包み込む視点のユニークさで若い女性を中心にそれなりにヒットしたらしい。露骨にその路線を継承した本作の邦題はいかにもガーリー路線な宣伝戦略を隠そうとしていないのだが、実はそんな浮ついた態度で鑑賞するカップルや若い娘たちに静かに深いトラウマを刻印する、超強力な社会派映画なのである。そのストレートな問題提示は「ホテル・ルワンダ」や「ナイロビの蜂」に匹敵する。

 オイルリグという舞台設定や、ちらりと登場するヴァンダムやヴィン・ディーゼルを巡る老婦人の問答などでも明らかなように、この映画の深層にはアクション映画(そこで描かれるものに対する嫌悪や、それに対する憧れ。ハンナが抱える秘密を生み出してしまう人間の衝動の代償行為としてのそれ。)が封印されており、表面上は孤独な娘と人懐っこいアメリカ男との、ちょっとアート映画っぽい静かなメロドラマとしての体裁を追いながらも、絶えずアクション映画と共振し続けているのだ。

 「死ぬまでにしたい10のこと」での少しばかりアイドル的な地味娘サラ・ポーリーを期待して観にいくと、クライマックスの告白の場面で、確実に打ちのめされることになるだろう。

 多分今週でほとんどのロードショーは終了するはずなので、今のうちに是非見ておくべき映画である。甘っちょろい邦題にだまされてはいけない。TOHOシネマズの番線に載ったこの映画は、まさに梶井基次郎の「檸檬」なのである。

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