最終兵器彼女 ★★★★

最終兵器彼女
2006 ヴィスタサイズ 121分
DVD
原作■高橋しん 脚本■清水友佳子
撮影■藤沢順一 照明■豊見山明長
美術■中澤克己 音楽■池 頼広
VFX監督■野口光一 VFXスーパーバイザー■氷見武士 
VFXアートディレクター■木村俊幸
監督■須賀大観


 なぜかひっそりと公開され、特にヒットしたという噂も聞かないうちに、いつの間にか公開終了していた本作は、監督の須賀大観が2ちゃんねる掲示板に自分の思い通りに進めることができなかった製作の舞台裏を赤裸々に明かすという異色の経緯を辿ったのだが、確かにそうした疑問を呼ぶ細部が多々存在するものの、原作も知らずに観る映画としては決して出来の悪い映画ではない。それどころか、予想以上に真情のこもった青春映画であり、ラストは号泣必死といえるだろう。少なくとも木下惠介の「野菊のごとき君なりき」や澤井信一郎の「野菊の墓」に号泣した者(普通の映画好きということだ)であれば、本作のテーマと語り口は、琴線を直撃するはずだ。

 平凡な少年と少女の不器用な初恋とその危機が世界の崩壊と対置されるのは、所謂”セカイ系”の趣向だが、そのなかでももっとも普遍性を持った作品ではないか。「新世紀エヴァンゲリオン」なんてちっとも面白いと思わないが、本作は平凡な少年と少女の初恋が丹念に描き出されているせいで、まずは感情移入可能な青春映画として成功している。設定の特異さが観客を選んでしまうのだが、本来はもっと間口を広げる工夫をすべきだったのかもしれない。樋口版「日本沈没」はそうした操作が興行的にも映画の作劇としても成功した例だろう。

 謎の第一は配役にあり、主役の窪塚俊介は癖が強すぎて平凡な少年には見えないし、ちせを演じる前田亜季もふっくらしすぎで、少しトウが立ちすぎている。ただ、前田亜季は確実に演技的にこの映画を支えているので、その意味では間違いではなかったようだ。実年齢と役年齢の乖離は映画では当たり前のことだ。他にもテツという重要な脇役が渋川清彦という聞いたことの無い、しかも決して巧いとはいえない役者だったりするのも謎だが、一方でネクサスこと川久保拓司自衛隊で頑張っているのはちょっと嬉しい。

 東映アニメーションが「デビルマン」に続いて製作したVFXもふんだんに盛り込まれ、カットによって出来不出来があるのは、CG工房各社に割り振ったせいだが、決してドラマの邪魔をするようなチャチなものではなく、VFXアートディレクターとして木村俊幸が参加しているおかげで、デザインセンスとしても高いレベルを維持している。ハリウッドのVFX大作と比較すると、空襲シーンはもっとドキュメンタルなキャメラワークと編集が施されてもいいだろうと思うが、クライマックスの”セカイ大戦争”場面は、もう涙無くして観ることができない美しさだ。

 散々自衛隊の撮影協力を仰ぎながら、「どうしてこんなこと(戦争)になってしまったのだろう」というモノローグに継いで自衛隊の演習風景の映像(画像処理で荒らしてあるが)を提示する監督の大胆さにも驚かされる。さすが東映と言うほか無い。

 しかし、どう考えても樋口真嗣の「日本沈没」と対になって見えてしまうのだが、青春映画としての痛みを抉り出しながら、大メロドラマとしてまとめ上げた脚本と演出はこちらの方に軍配を上げざるを得ない。上映時間121分の本作は、実はSFでもセカイ系でもなく、間違いなく超大作メロドラマなのだ。 

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