春の雪
2005 スコープサイズ
TOHOシネマズ(SC10)原作■三島由紀夫 脚本■伊藤ちひろ、佐藤信介
撮影■李屏賓 撮影補■福本 淳 照明■中村裕樹
美術■山口 修 音楽■岩代太郎
VFXスーパーバイザー■道木伸隆
監督■行定 勲
大正初期、侯爵家の嫡子・清顕(妻夫木聡)と、伯爵家の令嬢・聡子(竹内結子)は幼馴染みで、いつしかお互いに淡い恋心を抱くようになっていたが、聡子に宮家との縁談が持ち上がり、清顕の突き放した態度に落胆した彼女は縁組を承知する。ところが、互いの気持ちを再び確かめ合った二人は密会を重ねる・・・
上り調子の若手演出家、行定勲が三島由紀夫の「春の雪」の映画化に挑むという企画の野心だけで半分以上満足だが、映画の出来栄えも予想以上に健闘している。富山省吾製作による堂々たる東宝映画である。
なんといっても名コンビの篠田昇キャメラマンの死去が悔やまれるのだが、台湾から李屏賓を招いて長廻しのたうとうようなキャメラワークを再現しており、これはこれで悪くない。ただ、所々主演の竹内結子の顔色が厚化粧のように真っ白に映っているのは色彩設計あるいは照明のミスではないだろうか。
物語は原作(未読だが)を大幅に単純化しているらしく、端的に言えば大味かつ大時代なメロドラマで、文芸映画らしい人間造形の綾といったものは希薄なのだが、行定勲の独特の緩いリズムが心地よく大正時代の華族社会を堪能させてくれる。
本来は文芸ものの得意なベテラン脚本家を起用すべきところだが、敢えてメインの客層に年齢的に近い脚本家を起用して作劇の単純化を図った狙いは興行戦略的には間違ってはいないだろうが、せっかくの文芸ものなのに、台詞が砕けた現代調なのはいただけない。
また、欲を言えば、大作らしくもっと大きく引いた画が欲しいところなのだが、VFXスタッフは予想以上の大活躍であり、二人が始めてキスする馬車の外景のシーンはデジタル合成だと思うが、かなりよく出来ている。大仏の場面も合成ならではの美的な画面構成が成功している一例だろう。
竹内結子はタイプではないので、この映画でもとくに良いとは思わないが、脇を固める岸田今日子、大楠道代、若尾文子らの三島、大映ゆかりの女優たちの堅実な演技が映画の風格を保つのに大いに貢献している。ただし、近年の若尾文子の演技は実に怪しげだと思うのだが。往年の増村映画での神がかった名演は、めぐり合わせの奇跡なのだろう。
おそらく韓流ブームで注目されたメロドラマの復権を意図した映画でもあるのだろうが、本当のメロドラマはもっと複雑な人間造形、人間心理の機微の追求が可能なジャンルであったはずだ。