『ウィラード』

ウィラード
(WILLARD)
2003/CS
(2005/7/23 レンタルDVD)

感想(旧HPより転載)

 父親の死後、共同経営者(R・リー・アーメイ)に会社をのっとられながら、社員として勤務しながら老醜の母親の介護に精を出す孤独な男(クリスピン・グローバー)は、地下室で発見した白鼠にソクラテスと名前をつけて訓練し、ネズミたちを思いのままに操ることができるようになる。怨み重なる社長に仕返しを企てるが、ソクラテスは社長に発見されて殺されてしまう。男はベンと名付けたものの危うさを感じて疎外していた大型のネズミを使って社長に復讐を遂げるが・・・

 グレン・モーガンが脚本と監督を兼任する、70年代のヒット作のリメイク。オリジナル作はその昔テレビの洋画劇場でよく放映されていたが、詳細はすっかり忘れてしまったため、比較は出来ないが、少なくとも今回の作品は筋の通った佳作である。

 グレン・モーガンの演出は随所にヒッチコックの「鳥」や「サイコ」を援用するもののあまりこなれた演出ではないのだが、主人公の青年の孤独さに終始誠実に付き合う姿勢に70年代の映画の精神を正しく受け継いでいる。シャーリー・ウォーカーの劇伴がジェリー・ゴールドスミスタッチのいい仕事ぶりで、コミカルな味付けとサスペンス、そして青年の孤独な心象風景を巧みに奏で分ける。

 主役を演じたクリスピン・グローバーは漫画すれすれのところで、絶望的な孤独さを熱演し、滑稽さと悲惨さを両立した演技を披露する。「サイコ」のアンソニー・パーキンスを再現したラストの余韻の深さが主人公の心理劇として見事な結末となっており、有名なテーマソング「ベン」の物悲しさをうまく誘い出している。

 いまどき、これほど社会の落伍者に素朴なシンパシーを表明した映画は、それだけで貴重といえるだろう。そのありかたがちょっと、感動的である。

© 1998-2024 まり☆こうじ