裸の島
1960 スコープサイズ 95分
BSプレミアム
脚本■新藤兼人
撮影■黒田正巳 照明■永井俊一
音楽■林光
監督■新藤兼人
■新藤兼人による映画史に残る傑作と評価の定まった映画だが、初めて観た。新藤兼人は基本的に脚本の人だが、ここでは台詞を一切排し、映像と音楽による映像詩を試みている。実際、黒田正巳による全編ロケ撮影は、モノクロ映画の情景描写の美しさでは群を抜いている。
■お話はリアリティ狙いではなく、一種の寓話である。瀬戸内の無人島に一家4人で暮らす主人公たちの境遇は、リアリズムで考えれば、駆け落ちによる村八分とかある種の差別的な状況を感じることになるし、新藤兼人のイメージとしては確実に存在するのだろうが、敢えてそこには突っ込まない。どう考えても人が住むには適さない島に住み着き、乾燥した山肌にほかの島から水を桶に入れて運んで、灌水するという、単調で過酷な、そして理不尽な労働の中に、人間の生の厳しさと人の生きることの意味(あるいは無意味)を見出している。
■ほかの島で水を汲んで船で運ぶといっても、井戸水というわけでもなく、田畑用の用水路から汲むという状況は、この夫婦ものの置かれた境遇をうかがわせるに十分なのだが、具体的な説明は行われない。
■終盤で長男が突然死する部分がドラマのクライマックスで、愁嘆場なので、林光の松竹映画っぽいテーマ曲が愈々盛り上がり、確実に泣かされる。とにかくほぼ全編に林光の主題曲が配置されているので、林光ファンは必見。長男の葬儀(これも島で行われる)に小学校の同級生たちが船で島に渡ってくるあたりから、もう涙が溢れ出す。船を撮った映画は数多いが、この黒田正巳による撮影は絶品ではないか。