日本暗殺秘録
1969 スコープサイズ 142分
DVD
脚本■笠原和夫、中島貞夫
撮影■吉田貞次 照明■長谷川武夫
音楽■冨田勲 美術■鈴木孝俊
監督■中島貞夫
■昭和44年、ゲバルトの時代に、敢えて東映が問う、暗殺は是か非か、という日本映画斜陽時代を象徴するキワモノ大作映画。桜田門外の変、大久保暗殺事件、大隈暗殺事件、安田暗殺事件、ギロチン社事件、血盟団事件、二・二六事件等のテロ事件を取り上げるが、中心は血盟団事件の小沼正で、これを千葉真一が熱演し、井上日召を御大片岡千恵蔵が貫録たっぷりに演じる。キワモノ企画だが、笠原和夫と中島貞夫は大真面目に取り組んで、笠原和夫の天皇に対する怨念と中島貞夫の虐げられる者への共感が色濃く出た異色作だ。
■小沼正がいかにして一人一殺のテロリストに成長していったかを、笠原和夫がお得意の情感をたっぷりと盛り込んで説得力を持たせている。小池朝雄とか田中春男といった市井の人物に、テロを生んだ時代背景が具体的に描かれる。藤純子は脇役ながら圧倒的な存在感で、場面をさらってしまう。結核で恋人を失った千葉真一が入水自殺しようとして、信仰心を発起する場面は、千葉ちゃんの体当たりの熱演、ダイナミックで意欲的な撮影、冨田勲の音楽と相まって、観客の心を知りもせぬ昭和初期にタイムスリップさせてくれる。これは名シーン。
■二・二六事件では、磯部浅一を鶴田浩二に演じさせ、”全日本の窮乏国民は神に祈れ 而して自ら神たれ 神となりて天命をうけよ 天命を奉じて暴動と化せ”という、現人神である天皇の存在を完全にすっ飛ばしたアナーキーな獄中手記を読み上げる。そのおかげで思想的には右寄りである鶴田浩二は中島貞夫と仲たがいすることになるのだが、まあ、当然ですな。このあたりの笠原和夫の土性っ骨は凄い。
■冨田勲の音楽は、キワモノ超大作映画にして音楽的には傑作であった「ノストラダムスの大予言」を早くも予見させる、終末的な暗い陶酔感を表現しており、聴きごたえがある。予算的に楽曲の数は少ないが、代表作と言えるだろう。
■そうそう、ギロチン社の古田大次郎を高橋長英が演じて、ナイーブで純粋な気持ちがテロリズムへ結びつく不思議さを訴えかける。この場面は中島貞夫のこだわりらしく、「死の懴悔―或る死刑囚の遺書」からの抜粋は、素直に感動的だ。本当は古田大次郎を主役にしたかったらしい。オムニバス映画だが、彼らテロリストと呼ばれた男たちの中に通底するものを、笠原、中島視点から探ったという、貴重な試みの記録である。今後、こうした試み自体は日本映画では存在しえないだろうから。