いれずみ半太郎 ★★★☆

いれずみ半太郎
1963 スコープサイズ 90分
NFC
原作■長谷川伸 脚本■野上竜雄
撮影■吉田貞次 照明■中山治雄
美術■鈴木孝俊 音楽■斎藤一郎
監督■マキノ雅弘

■博打でこさえた10両の借金のせいで江戸を逃げ出した若者(大川橋蔵)がいっぱしのやくざになって、金をこしらえておっかさんの元へ帰ろうとした矢先、身投げしようとする女郎(丘さとみ)を助ける。女郎の足抜けを助けたと誤解され、追われる身になった二人は逃げ堕ちるうち、互いに愛し合っていることを知るが、女は病を得て・・・

■あまり聞いたことのない映画だったのだが、長谷川伸の股旅物が原作なので興味を持って、フィルムセンターのマキノ特集で観て来たのだが、予想もしなかった秀作なので驚いた。この時期、東映では錦之助の股旅物で傑作が生み出されていたが、そうした傑作群に十分拮抗する映画である。野上竜雄の暗い情念が沸々と煮えたぎるような陰々滅々とした男女の道行きを、実に丁寧に演出している。

■陰気で口を利くのも億劫という風情の堕ちに堕ちた女郎をお姫様女優の丘さとみに演じさせるというのがマキノ監督のチャレンジだったのだろうが、見た目にはどうしてもむくむくの小太り娘にしか見えないこの女優が辛うじて薄倖のヒロインに見えるから不思議だ。いれずみ半太郎といいながら、景気よく見栄をきるわけでもなく、瀕死の女房に手を添えて、自らの腕に女房のおなかという名を彫るだけという、惨めに落ちぶれた男女の、それでも一瞬輝いた人生の交錯を、どうにか繋ぎとめようとするいじらしさの表現として設定されていて、泣ける。

■技術スタッフは内田吐夢組を総動員しており、フジフィルムならではの、クリーミーな濃密な湿度表現が幽玄な舞台情景を造形しており、見事な映像美をみせる。重厚な構図も見事。身投げしようと女が彷徨う突堤(?)の夜景など、突堤から海面まですべてセット内の造形物だが、スケールの大きさ、湿った霧の密度、すべてが素晴らしく、映像美に酔わされる。竹林の場面は、野面の照明に関して、大映の超絶様式には及ばないが、実にいい芝居の見せ場が設けられており、名場面となっている。
■60年代の股旅映画には傑作が少なくないが、これぞ忘れられた傑作だ。DVD化希望。あるいはBS2で是非放映を。

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