感想(旧ブログから転載)
室生犀星の代表作の三度目の映画化で、成瀬巳喜男による二度目の映画化で脚本を書いた水木洋子が時代に合わせてリライトを施したもの。
多摩川とともに生きてきたが往事の面影が喪われやがて朽ちてゆくに違いないと思わせる一つの旧い家を舞台に、妹(秋吉久美子)を愛する余り妹の自堕落な生活に対して容赦なく口汚い罵りの言葉を浴びせる荒くれの兄(草刈正雄)の姿が鮮烈に浮かび上がる。
人物設定、舞台設定共に制作当時の時代背景からは明らかに浮き上がっていた企画のはずだが、売り出し中の秋吉久美子とやはり全盛期といってよい若々しい魅力に溢れた草刈正雄の意外な好演のお陰で、かろうじてなんとか観られる青春映画になっている。そう、これは老巨匠の文芸映画ではなく、東宝青春映画の系列にそっと置いてみたい小さな佳作なのである。
散々妹の人格そのものを否定するかのような罵詈雑言を浴びせていた兄が、ラストに呆気なく妹と和解するのは、あまりに取って付けたような展開だが、ラストの秋吉久美子の泣き顔のストップモーションには、やはり急所を突かれてしまう。そして、その表情は昭和51年という時代の曖昧な記憶と共に漂い続けるだろう。