『放浪記』

基本情報

放浪記
1962/CS
(2002/4/20 BS2録画)
原作/林芙美子菊田一夫の舞台脚本より)
脚本/井手俊郎田中澄江
撮影/安本 淳 照明/石井長四郎
美術/中古 智 音楽/古関裕而
監督/成瀬巳喜男

感想(旧HPより転載)

 赤貧の林ふみ子(高峰秀子)が上京してカフェの女給をして食いつなぎながら貧乏を赤裸々に綴った詩や童話で頭角を現し、ついに「放浪記」を出版して文壇に確固たる地位を占めるに至る女の一代記を、彼女の多難な男性遍歴を中心に描き出した宝塚映画製作による東宝創立30周年記念映画。

 彼女の最初の夫になるのが詩人で劇作家である仲谷昇、その次の夫となる肺病病みの皮肉家ですぐに暴力を振るう小心者の物書きになんと宝田明が扮して、柄にもない病弱な役を演じるために顔に黒い隈を入れて熱演する。成瀬巳喜男の演技指導を得てかなり好演するが、後の加山雄三のような成功には至っていない。安アパート住まいの頃から一方的に彼女を支援し続ける男やもめの加東大介がなんといっても観客の同情を誘う得な役で、女流作家として大成した主人公とかわすラストの交流の場面に比類ない安堵感をもたらしてくれる。

 不美人ゆえに面食いで優男に弱く、何度も結婚に失敗しながらも、文学仲間の原稿を締切までに届けるのを失念する不義理をも糧にして図々しく成り上がってゆく主人公の姿をかなり相対化した描き方をしているあたりの辛辣さが見物で、晩年の「乱れる」や「乱れ雲」といった傑作には及ばないものの、文芸映画の愉しみを堪能することができる。

 おまけに、文学座研究生時代の岸田森草野大悟が1シーンのみ出演(たしか映画初出演のはずだ)して、涙を誘う。岸田森なんてほとんど顔は映っていないが、高峰秀子に向かって「さあ、飲め。山猿!」なんて科白を吐くのだ。自分が酒に呑まれて夭逝しようとは夢にも思っていなかったことだろう。合掌。

 主人公を取り巻く文壇の仲間たちが伊藤雄之助草笛光子、加東武という錚々たる曲者揃いで、なんともにぎやかで楽しい。貧乏な主人公を事務所と偽って旅館に連れ込む伊藤久哉が科白もないのに、風貌から絶大な存在感を放って見事だ。

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