感想(旧HPより転載)
母親(原田美枝子)が検査入院している間に母親の出せなかったラブレターを発見した娘(田中麗奈)は母親の初恋の相手を捜し出して手術の日までに再会させる計画を進め始める。見つけだした男(真田広之)は人生を投げた自堕落な生活をしていたが、娘と出逢ったことによって何かが変わり始める。約束の夜、想い出の願い桜の下に彼はやってくるのだろうか?
田中麗奈主演の正真正銘、天下堂々のアイドル映画の決定版。沢井信一郎の全盛期に原田知世主演で撮った秀作「早春物語」などを想起するとしみじみと感慨深いものがある。
しかし、もともとは田中麗奈を狂言廻しにしつらえて、その父母のなれそめや母親の初恋の顛末を引き出すという構成で、「早春物語」の原田知世のように純粋に主役というわけではないかもしれない。主人公よりもクライマックスで母親が娘に初恋の相手と現在の夫(平田満)を想いながら自らの人生を振り返りつつ語って聞かせる言葉の重みはむしろアイドル田中麗奈を観に来る年代よりもその父母である原田美枝子や平田満の年代の大人達を肯定し癒す。実際、クライマックスの夜の願い桜のシーンでは原田美枝子と平田満に泣かされるのだ。
「大地の子守歌」で増村保造の洗礼を受け、その後は半ばオカルト女優として活躍してきた感のある(?)原田美枝子だが、ここでの彼女は肩の力の抜けた大人の女を自然に演じて、娘や不器用な夫をあるがままに受け入れ愛することのできる成熟した女の姿をたっぷりと見せる。このあたりは原田美枝子の独り舞台といっても過言ではない。
しかも、その夜会の段取りをするのが地元のタクシー運転手役の佐藤允というキャスティングも素敵で、まるで60年代の東宝映画が蘇ったかのように豪快な笑いをスクリーンに振りまく。このあたりは脚本の要請というよりも監督の趣味の範疇でもあろう。
そうした好演に比べると年齢的にも過渡期にあるといえる真田広之は演技的に対等とはいえず、どうしても見劣りしてしまう。JACで身に着けた挙動の身軽さが年齢相応の佇まいを身体に纏うことを邪魔しているように見えるのだが。
そんななかで田中麗奈はアイドルの旬を記録映画風にフィルムに封じ込めたいという監督の意図によって、可能な限り素に近い仕草を要求されていたものとみえる。演技的にはむしろ「がんばっていきまっしょい」の方が鮮烈だったと思われるが、ラストの狙い澄ましたアップで全てが計算どおりだったことを思い知らされる。原田美枝子の妙演をワンカットですっかりさらっていくという不敬な離れ業は倫理的に絶頂期のアイドルにしか許されないことだろう。