『陸軍中野学校 開戦前夜』

基本情報

陸軍中野学校 開戦前夜(1968)
脚本・長谷川公之
撮影・武田千吉郎 照明・古谷賢次
美術・上里忠義 音楽・池野 成
監督・井上 昭

感想(旧HPより転載)

 香港での諜報活動で敵のP機関に手痛い拷問を受けながら辛くも救出されて帰国した椎名(市川雷蔵)に開戦時期の決定をめぐる御前会議の情報漏洩ルートの捜査が命じられる。画家(船越英二)の身辺を洗ううちある病院がアジトになっていることを突き止めるが、そこに待っていたのは香港で出逢い愛におちた令嬢(小山明子)であった。果たして椎名は開戦情報が敵国に漏れるのを防ぐことができるのか?そして日米開戦の行方は?

 シリーズ第5作で最終作だが、あまり芳しい出来ではない。そもそも脚本が冴えず、諜報戦のサスペンスも非情なスパイ戦に生きる人間達の虚無感も映像に浮かび上がってこない。さすがに井上昭の演出は森一生とは異なり、定石ともいえるコントラストの強いモノクロ映像と、柔軟な手持ちカメラによってリアリティを掴み取ろうと苦戦するが、却って大映東京の平凡な現代劇にしか見えないのが皮肉だ。しかし、もともと時代劇のベテランキャメラマンである武田千吉郎がここまで柔軟にフィルムノワールに対応していることに驚くべきなのかもしれない。

 祖国に忠誠を誓って誇り高くスパイとして死んでゆく令嬢を大島渚の妻に演じさせるあたりが当時的には話題作りでもあろうが、今観ても小山明子の無機的な個性が生かされている。
(2000/12/27 スコープサイズ V)

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