てなもんや商社

てなもんや商社 [VHS]

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基本情報

てなもんや商社
原作・谷崎 光 脚本・榎 祐平
撮影・長沼六男 照明・吉角荘介
美術・太田喜久男
音楽・MASTER MIND BACHIBOUZOUK BAND
監督・本木克英

感想(旧HPより転載)

 奥山ジュニア失脚によりまともに宣伝もないままひっそりと公開されたシネマジャパネスクの1作だが、中国相手の小さな商社に採用されたOL(小林聡美)が個性の強い社員たちや現地工場の担当者たちと渡り合いながら職業人として成長してゆく姿をコメディタッチで描いた案外良くできた良心的な娯楽映画。

 映画では滅多にお目にかかれない中小商社という極めて地味な職業の実態を、作者の実体験に基づいて具体的に描いて見せる辺りには「マルサの女」以降のノウハウ映画のおもしろさが確保されているし、さらに主人公の直接の上司となる華僑の王課長(渡辺謙)の商売人としての含蓄に富んだアドバイスがこうしたドラマにありきたりの紋切り型の建前ではなく、商売人としての本音として極めて実直に表現されている点の痛快さにもリアルな説得力がある。

 人が労働によって成長する姿をファンタジーではなく、リアルなエピソードで描き出す姿勢は絶対的に正しい。例えば、増村保造の「巨人と玩具」や「黒の試走車」「黒の超特急」といった作品は、こうした映画に対する陰画として存在しているのだろう。 

 主人公の小林聡美は当然のことながら好演するものの、本来なら年齢的にいってもミスキャストで、もっと若い女優に任せるべき役柄だったはずだ。小林聡美はその新人OLに絶妙のタイミングで厳しくかつ暖かいアドバイスを与えるといった役所が用意されるべきだったろう。(ま、最後には実際そうなるのだが)

 一方、華僑を演じる渡辺謙は明晰な口跡と声質の良さが存分に発揮されて「絆」とは比べものにならないほどの巧演。胡散臭いチョビ髭を蓄えてコミカルでありながら経験に裏打ちされた的確な指導を見せ、異常に格好良い。「マルサの女」の山崎努に匹敵するほどだ。渡辺謙の上手さを初めて認識させられた。

 長沼六男のキャメラワークはコメディにしては立派すぎるようで、監督昇進第一作となる本木克英のカット割が拙いのか、編集のリズム感が悪いのか、コメディらしい弾み方には乏しく、例えば金子修介や渡邊孝好の域には達していない。ただ、小林聡美の父親役の田中邦衛を始め、脇役に北村聡一朗や柴俊夫、鶴田忍といったベテラン俳優を配した成果は確実に上がっており、役者を観る楽しみも満喫できる。
(98/11/21 ビスタサイズ V)

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