『黒の試走車』

基本情報

黒の試走車
1962/CS
(2003/6/3 レンタルV)
原作/梶山季之 脚本/舟橋和郎石松愛弘
撮影/中川好久 照明/泉 正蔵
美術/山口 熙 音楽/池野 成
監督/増村保造

感想(旧ブログから転載)

 新車開発をめぐって熾烈な産業スパイ合戦を繰り広げる自動車メーカーの企画部長(高松英郎)のもと薫陶を受ける課員(田宮二郎)はライバル社の関東軍諜報員出身の強豪(菅井一郎)から新車の価格設定を引き出すため、恋人(藤由紀子)にベッドを共にするよう説得する。価格競争で勝ったと思った矢先、製品第一号車が踏み切りでエンストして列車と衝突事故を起こす。購入者の身元を当たるうち、会社幹部(船越英二)に疑惑が向けられるが、部長に激しく難詰された幹部は咄嗟に窓から身を躍らせて自殺してしまう。あまりに非情なやり口に課員は会社との訣別を決意するのだった。

 一時期大映の看板シリーズだった「黒い」シリーズの第一作。なんだか後年の「赤い」シリーズを髣髴させるが、どちらもシリーズの骨格を組み上げたのは増村保造その人である。

 本作は明らかに「巨人と玩具」でたどり着いた増村哲学の図式の変奏曲であり、スケールダウンは否めない。高松英郎がほとんど同じに見える人物を颯爽と快演し、川口浩の役どころを田宮二郎がより陰影の強いハードボイルドな風情を漂わせながら演じる。ライバルとなる菅井一郎の軍人上がり特有のドスの効いた貫禄は他に真似のできるものではない。

 クライマックスの狭い部室で高松英郎船越英二を尋問する場面は、増村独特の人物配置と中川好久の尖鋭的な構図が相まって、増村的な高揚感あふれる名場面だが、久々に観直した今回は、会社組織に対する隷属によって田宮と藤のカップルの関係が黒々と蝕まれてゆく場面が中川芳久の奥行きを殺した鋭角的な画面構成と増村独特の硬質な演技合戦によってあくまでドライに描き出され、それゆえに絶望的な切なさが浮き彫りにされている様に感動した。

 産業スパイ合戦の手口の面白さを前面に押し出すため、田宮と藤が直接絡む場面は少ないのだが、田宮のアパートで、公園のブランコで、そしてラストの砂浜で、どれもコントラストの強いモノクロ映像が無機質な乾ききった二人の関係を映像と音声そのものとして提示しており、異様なまでに崇高な美しさを放っている。

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