拝啓天皇陛下様 ★★★

拝啓天皇陛下
1963 スコープサイズ
BS2録画

原作■棟田 博 脚本■野村芳太郎、多賀祥介
撮影■川又 昂 照明■三浦 礼
美術■宇野耕司  音楽■芥川也寸志
監督■野村芳太郎


 語り部長門裕之)と天涯孤独の男(渥美清)が軍隊で出会い、太平洋戦争後に男が不慮の事故で命を落とすまでの交流を描いた野村芳太郎の代表作。
 出会いと別れを繰り返しながら、太平洋戦争突入前から終戦後までの日本人の姿を渥美清という特異なくキャラクターの中に仮託して描き出してゆく構成が、90分ほどのプログラム・ピクチャーを大河ドラマのように感じさせる。
 渥美清のエピソードとともに、戦争によって浮き沈みしてゆく長門裕之のドラマが重層的に語られるが、この配役はやはり「秋津温泉」を意識したものだろう。
 ずぶずぶの喜劇かと思いきや、中国の前線では鈴木清順の映画から迷い込んだような玉川伊佐男が引き裂かれた兵隊の遺体を焼いており、あくまで戦争と日本人と天皇というテーマをなぞって展開していく。
 辛い娑婆よりも食うに困らない軍隊のほうが楽しく、戦争をやめないように天皇に直訴状を書こうとする主人公の姿に、戦争を体験した日本人への痛烈な皮肉が投げかけられているが、あくまでベタな笑いの意匠を纏っているあたりが、日本映画であり松竹映画である。

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