嗚呼、鹿島の海が逆流する...鹿島港開発の面白すぎる理想と現実!『甦える大地』

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基本情報

甦える大地 ★★★☆
1971年 スコープサイズ 119分 @amazonプライムビデオ
原作:木本昭次、脚本:猪又憲吾 撮影:金宇満司 照明:椎葉昇 美術:坂口武玄 音楽:武満徹 監督:中村登

感想

石原プロがなぜこんな題材に挑んだのか興味が尽きないが、原作者が『黒部の太陽』の人だったからだろうか。高度経済成長の時代、砂地と貧困が支配する不毛の地・鹿島に人工の堀込湾として鹿島湾を設置し、工業コンビナートを誘致して、工業と農業の両輪の繁栄を目指して「農工両全」のキャッチフレーズで進められた鹿島湾開発の理想と現実の姿をシニカルに提示する、意外にも見ごたえある社会派映画の良作。

■お話の前半はいかにも図式的な構図が敷かれて、岡田英次が演じる県知事が実質主役なので、裕次郎の影も薄いし、どうなることかと気をもんだが、後半はしっかり裕次郎が主役として動き出し、物語のテーマのせり上がってくるから、意外にも良くできた脚本なのだ。冒頭に置かれた治水工事の大失敗が終盤でちゃんと呼応してくる脚本構成は正攻法で見事。

裕次郎は県庁職員を演じ、県知事の理想論での土地買収が暗礁に乗り上げるとかねてから目を付けていた建設省の辣腕役人を県に迎える。この役人を三國連太郎が例によってあくの強い演技で演じ挙げて、後半の見せ場をさらう。実際、実にカッコいい。札束で農民の面を張る手法で一気に買収を成功させると、理想論に固執する裕次郎と対立するのもリアルな見せ場。しかも農民に用意された替地は例によって荒れ地で、さすがにまずいと思った裕次郎は養分を含んだ川底の土壌をくみ上げてパイプラインで替地に誘導して放出するという荒業を成功させる。

■鹿島湾と鹿島コンビナートの開発は成功した。工業地帯は整備され稼働を開始したが、一方替地に移った農民たちはあぶく銭で歓楽街を作り出し、「緑の楽園」になるはずだった農地は顧みられず荒廃し、裕次郎はこんなはずではなかったと悩む。このあたりの捻りは、史実に基づくものだろうが、よく描いたものだと感心した。実際、緑の楽園ならぬ鹿島パラダイスという歓楽街が誕生したらしい。

■困惑する裕次郎が馴染みの女教師司葉子に心情を吐露する場面は、意外に低予算のこの映画の白眉といえるステージ撮影で、画面の奥に鹿島コンビナートの毒々しい夜景をミニチュア的に作りこんだ情景を捉えながら、裕次郎が背負っていかねばならぬ羽目になった鹿島開発の原罪を赤々と浮き彫りにする。その功罪を台詞だけでなく、映像と画面構成で一目瞭然に表現した大胆な美術装置には驚嘆した。基本的に低予算で現物主義の撮影が行われた本作で、異様に気合の入った美術装置だった。

■土地買収のために不眠不休で働きとおし、汚い手もいとわなかった、そうしなければ食えなかった若い者たちが開港記念式典にも呼ばれず、次こそは俺たち自身の歌を歌おうじゃないかと自らを慰める場面も点描ながら、作者の視点の誠実さを感じさせて、グッとくる良い場面。

■ただ残念なのは冒頭の運河工事の失敗のスペクタクルや中盤の試験提を破壊する大嵐といった美味しい場面をちゃんと特撮で描き出さないところで、基本的に実物主義でリアルに行くという石原プロの意気込みはわからんでもないが、そこは特撮がないと残念ながらドラマにならない。運河の開通式で海から大波が逆流して人夫たちが流されたりするのも、実に稚拙なモンタージュでかなりヒドイいわけで、ちゃんとミニチュアセットを組んで適切に合成してロケと絡めれば、波の威力を立体的に描けるのに。試験堤を破壊する場面も実物では描けないから省略してしまうしね。そこはちゃんとミニチュアカットを挿入しないとお話にならない。例えば円谷英二の『箱根風雲録』の箱根用水開通の特撮シーンをみれば、特撮の必要性と映画的効果のほどは歴然なんだけどね。昭和46年当時はテレビで第二次怪獣ブームが巻き起こる時期なので、各社とも映画の特撮場面だけを請け負う余力は無かったのかもしれないがね。

■高度経済成長期のなかでも異色の理想主義的な開発が行われた鹿島湾工事だが、その結果は決して人間の思い描いた理想通りにはいかず、苦渋を飲み込んだ裕次郎の眉間は深いしわが刻まれるのだった。ほとんど忘れられた映画で、実際DVDが出るまで存在自体も知らなかった映画ですが、意外に上出来な社会派映画なので、アマゾンプライムビデオで是非観てね!

参考

maricozy.hatenablog.jp
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佐藤純弥が同じ題材をじぶんの所属する東映大泉撮影所の労使闘争の図式をダブらせてヤクザ映画に仕立ててしまいました。
maricozy.hatenablog.jp

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