なぜに『炎の城』はハムレットなのか?

基本情報

炎の城 ★★☆
1960 スコープサイズ 98分 @NHKBS
脚本■八住利雄、撮影■吉田貞次、照明■中山治雄、美術■吉村晟、音楽■伊福部昭、監督■加藤泰

感想

八住利雄が『ハムレット』を時代劇に翻案した異色の時代劇大作。ハムレット大川橋蔵、オフィーリアは三田佳子!王子が明国から帰ってくると大見の城は父親にとって代わって叔父が城主に収まり、しかも母を妻に迎えていた。叔父が父を謀殺した疑惑に身の危険を感じた王子は偽狂人として振る舞う。また、城主の野心の犠牲となって重税に苦しむ領民たちに心を寄せる王子は、百姓たちのために立つことを約束するが、偽狂人であることがバレると・・・

■今となっては企画意図が判然としないのだが、大川橋蔵の演技派への脱皮のために用意された企画だろうか。あるいは、当時黒澤明がさかんにシェイクスピアの時代劇への翻案を行っていたことを意識したのかもしれない。マンネリ化が叫ばれる時代劇の改革という意図だったかもしれない。

■さすがに時代劇大作で、美術セットの豪壮さは見ごたえがあるし、加藤泰のクレーンを使った長廻しはまるで相米慎二だし、いくつかの名シーンもある。あるんだけど、最終的にはかなりずぶずぶになってしまう。クライマックスの大見城の陥落もスペクタクルとしては盛り上がらないし、いくらなんでも死んだはずの王子が元気そうに大河内伝次郎を一騎打ちという趣向は、さすがに段取りが苦しくて失笑を誘い、チャンバラの醍醐味も薄い。そもそも、クローディアスに大河内伝次郎の配役はこの時期としても苦しい。ここは当時東映京都に出入りていた新劇系俳優でよかったと思うがなあ。

■全体にシェイクスピアに義理立てし過ぎて不自然になった印象で、意欲作ではあるものの失敗作という雰囲気。立派な作画合成(あるいはミラーワーク?)もあれば、炎上する大見城はミニチュア撮影だし、見どころは少なくないんだけど。

■それに、この翌年の傑作『反逆児』に妙に似ているのも気になるところ。母親の前で屏風の陰に隠れた敵を切り捨てる趣向なんて、全く同じで、『反逆児』の方が成功しているんだけど、なんでこんなに似ているのか。まるで双子のような映画だ。音楽も伊福部昭で、これもやっぱり『反逆児』の方が傑作だしね。

参考

これ観てるんだけど、そういえばあまり記憶に残っていないぞ。面白かったんだけどなあ。

ハムレットだったかどうかも怪しい。でも、浪花風味が楽しい。

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