利休にたずねよ ★★☆

利休にたずねよ 通常版 [DVD]
利休にたずねよ
2013 スコープサイズ 123分
Tジョイ京都
原作■山本兼一 脚本■小松江里子
撮影■浜田毅 照明■安藤清人
美術■吉田孝 音楽■岩代太郎
監督■田中光敏

■秀吉に切腹を命じられた利休が、青年時代に遡って、茶道を志し茶道様式を確立するきっかけとなったある女性との運命的な出会いと別れを回想するという文芸時代劇。だが、これが「文芸色」と「茶道伝統」の呪縛にがんじがらめに絡めとられて映画的な面白みに欠ける困った映画。メインとなるアイディア自体は非常に魅力的であり、主題的には東映ならではというか、なぜこんな敷居の高い生真面目文芸作を東映が制作するのか、最終的にすんなりと腑に落ちるお話で、その意味では非常に興味深いのだが、お話のおもしろさのポテンシャルを十分に引き出せていない。高麗から売られてきた高貴な女とのメロドラマは、十分面白いのに、全体の構成がマズくてそこへ行き着くまでに時間がかかりすぎ。
■まあ、原作どおりの筋運びにしたのだろうが、信長、秀吉と利休の絡みが全く面白くない。熊井啓の「お吟さま」などの方が格調も高く、百倍面白い。このあたりは原作を離れてでももう少し脚本上の工夫が必要だったと思うし、演出もメリハリが欠ける。なぜ利休は死ななければならなかったのかという部分に全くサスペンスがきいいていないのは致命的な欠点だ。
■撮影、照明、美術のスタッフワークは東映京都の意地を見せるが、今回素晴らしかったのは意外にも音響効果の演出だった。雨音、衣擦れ、粥を啜る音、茶をたてる音等々の効果音を選別して静寂の中でじっくり聞かせる音響設計が抜群に素晴らしく、特にシネコンの音響で聞いているとそれだけでうっとりする。この音響効果の官能性は劇場でなければ体験できないだろう。
■青年期から晩年までを演じる市川海老蔵は確かによく努力しているが、どうも演技プランに監督の抑制がきいていない感じがある。中谷美紀については特に違和感が大きく、すっかりマイペースの自己陶酔型演技で、この先が心配になる。話者でもあるので、もっとキビキビと演じてくれないと間が伸びてしょうがない。キャストについては中村嘉葎雄が元気そうだったので、それだけで満足したよ。

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