密告 ★★★☆

LE CORBEAU
1943 スタンダードサイズ 94分
DVD

■カラスと名乗る人物からある医師を堕胎医と中傷する密告の手紙が出され、さらに村の有力人物たちの私生活を暴露する手紙が届きだしたことから小さな村に疑心暗鬼が渦巻き始めるという、人間の悪意を描いたどす黒いサスペンス映画。監督は、アンリ・ジョルジュ・クルーゾー。『恐怖の報酬』が特に有名だが、個人的には『悪魔のような女』がなんといっても強烈。サスペンス映画ながら怪奇映画めいた恐怖感がまとわり付いたモノクロ映像が秀逸で、ショックシーンも映画史に残る強烈さ。どんでん返しもこわ〜い名作ですな。リメイク版はどうしようもなかったけど。
■本作もフランス映画ならではのもってまわった台詞劇で、フランス映画のエスプリ（？）も味わえるけど、なにしろ展開の速さに驚く。この時期のハリウッド映画でもこれくらいのテンポで凝った台詞がぽんぽんとやり取りされるので、ボーっとしていると人間関係が理解できないくらいだが、本作もそんな感じ。昔の観客はほんとに映画に関するリテラシーが高かったのだ。ただ、日本語訳には相当疑問があり、字幕が日本語としてこなれていない部分が多い。雰囲気を出すために、敢えて直訳的にしているのだろうか。
■そしてラストには期待通りの見事なツイストを見せてくれ、ラスト５分くらいでお話が二転三転するという刺激的な結末。こうした切れ味は昨今の映画では見ることが出来ませんな。ひょっとして、不条理劇的に終わるのかと思いきや、ちゃんと犯人探しのミステリーになっている。アンリ・ジョルジュ・クルーゾーって、ほんとに不吉な映画が得意だなあ。食えないおっさんという気がするよ。