007 スカイフォール ★★★☆

SKYFALL
2012 スコープサイズ 143分
MOVIX京都(SC1)

007/スカイフォール オリジナル・サウンドトラック
■007シリーズはシリーズの半分も観ていない生半可な観客なんだけど、これは面白かった。昔の007ののんびりと荒唐無稽なアクションとスペクタクルを楽しむという特色からは大きく外れていて、もっとシリアスなお話で、笑いの要素も少ない。何しろ主演のダニエル・クレイグのしかめっ面が全てを象徴している。
■本作はいつものように巨大な組織や装置を操る悪が登場するわけではなく、もっとミニマムなドラマで、もうひとりのボンドともいえるサミュエル・バルデムが登場し、ジュディ・デンチを挟んで一種の三角関係が描かれる。まあ、バルデムの強烈な顔力と粘っこい演技で強烈なキャラクターを造形してみせる。ダニエル・クレイグがどちらかといえばポーカー・フェイスの立役なので、バルデムの大芝居を観るだけでわくわくしてくる。重要な脇役で登場するジョセフ・ファインズがこれまたおいしい役を嬉々と演じて、カッコいいこと。独特の台詞廻しは丹波哲郎のそれに匹敵する至芸ではないか。
■監督のサム・メンデスって、正直今までよく分からない監督だったのだが、これは結果的に良かった。撮影監督に、ハリウッドの宮川一夫、現在世界一のキャメラマンと言って過言ではないロジャー・ディーキンスを迎えた意味合いも、その映像を見れば一目瞭然。特にスコットランドに舞台が移ってからの渋い構図、照明設計は絶品。本作は初のHD撮影とのことで、IMAXで観ると感激するらしいが、まあ、フィルム撮影との違いはもう全く分からない。フィルムが滅んでいくのは問題もあるのだが、金さえかければほとんど遜色ないルックが撮れるのだ。
■とにかく本作は『瞼の母』を下敷き(ほんとかよ)に、母に捨てられた息子たちのその後の姿を対比的に描いたミニマムなドラマを様式的に描いた実は渋い映画なので、特に終盤は退屈する観客があるかもしれないし、007じゃないだろうという反応も当然起こるだろうが、それでも突き抜けた達成感を感じることができる力作である。なんとなく、サム・メンデスロジャー・ディーキンスのコンビは市川崑宮川一夫のコンビを思い出させるなあ。

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