- 作者: 澤地久枝
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2006/08/17
- メディア: 文庫
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■仮にも有能な秘書である40代の職業婦人が単にそそのかされただけでいやいや重要機密の漏えいに関与したわけではあるまいという、自分自身の不倫体験を踏まえた視点からの推論を立て、女性事務官に独立した一個の人間として自分自身の言葉で真相を語ることを促すという切り口が凄い。しかも、女性事務官の別の不倫相手という男性が登場して、彼女の性格の”病的な傾向”にまで言及するというあたりの”藪の中”ぶりも凄い。女性事務官も単なる被害者ではなく、積極的に国家機密を国民に知らせるために男性記者を利用したのだというくらいの真相を作者は期待していたふしがある。
■確かに、女から機密情報を餌に関係を求めるという部分はあったかもしれない。だが、そうしたある意味、増村保造的な女性像を思い描くには、時代が若すぎたのかもしれないし、そもそも情を通じたそそのかしによる被害者という、用意された古風な構図による女性像の普遍性の前には無力であった。そして、その真相の一端はドラマ「運命の人」の中で描かれるのだろうか。