これは、シン・日本沈没だ!『日本沈没-希望のひと-』ぼんやり備忘録【最終話更新】

第一話「異端学者の世紀の大予言」


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■全く期待していなかったけど、意外と面白いドラマになっている。単純に展開が早いのが良い。昔のTVシリーズに比べての美点。

■なにしろ、わだつみで深海探査を行った翌日には報告書が会議に出されているし、証拠ビデオは画像修正されているという猛スピードぶり。流石に東大の研究室は人的資源が豊富らしい。徹夜&人海戦術の為せる技だろうからね!

■一方、その東大を不正経理で追われたのが、お馴染みの田所博士。異端の学説で学会を追われた、という昔ながらのパターンではなく、不正経理とは。。。いかにも今のリアルを反映している。どこかの大学にも熊本地震阿蘇山噴火を結びつけた論文を書いて、研究不正で追われた学者がいたっけ。ぜったいあの事件がモデルになってるよね、間違いなく。

■お馴染みのD計画も、うまいアレンジで、田所博士を広告塔に使って原野商法を行っている詐欺会社という登場の仕方。これが後に国家的プロジェクトの隠れ蓑だったことが判明し…となるんだろうね。きっと。分かっているはずの正体を敢えて回りくどい提示をする手法は、特撮映画のストーリーテリングの常道でもある。同じ精神を汲む『ディープ・インパクト』も思い出されるよね。というか、作劇の参考にしているはず。

■そもそも、まだ田所博士は「関東沈没」しか主張していないので、持って回った小出し感のサスペンスが蓄積する仕掛けです。悪くない作劇だと思います!

■早くも「直感とイマジネーションだ!」の名台詞も登場するし、年寄り視聴者の琴線も刺激するようになっている。香川照之の演技は怪演というよりコントに見えるけどね。

■残念なのは海底乱泥流が登場しないことで、本作ではスロースリップ(プレート境界の断層すべり)現象が沈没の原因となっていますね。深海底から二酸化炭素を出さない新エネルギー・セルスティックを組み上げるために政府が建造したCOMSが、スロースリップ現象を後押ししてしまったという設定ですが、新エネルギー・セルスティックの件だけで別のドラマができそうな勢いですね。

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第二話「作られた嘘」


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■主人公で環境省の役人である天海氏、色んな意味で相当ヤバい人物でして。そもそも肩書が明かされないのも不穏(?)ですね。課長補佐?課長?

■「関東沈没」説の虚妄を暴くために田所博士を日本未来会議に招聘しておきながら、土壇場で田所博士の肩を持つものだから、東大の世良教授が激高するのももっともなこと。と感じますよね。お前、マッチポンプかよ!と。

■もちろん、その豹変には、裏から手を回して入手した深海探査データの改竄の証拠が根拠としてあるんだけど、より切実なのは、自分自身が日ノ島沖の海底で遭遇した熱水の噴出現象だ。これによって、田所説の正しさを直感的に感じてしまったのだ。そう、こいつも「直感とイマジネーション」の人間なのだ。同類なのだ。

■しかし、本作の田所博士の小物感と、「関東沈没」に限定した理論構成から考えるに、この田所博士は、原作の田所博士とは異なる役回りではないかと感じる。実は原作の田所博士に相当する人物は今後別に登場して、いま日本が直面しているのは「関東沈没」どころか「日本沈没」の危機であることを明かすのではないか。だから、香川照之はあんなにパロディ的に演じているのではないか。と妄想するのだが、真相はいかに?

第三話「葬られた不都合な真実


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■データ解析の結果「関東沈没」は当初の予測よりも早まっていた!しかも、「関東沈没」情報は一部財界にリークされていた。焦った天海は人命優先の観点からフルオープンで国民に公開することを主張するが、日本未来会議で孤立する。親友の常磐すら副総理の懐柔を受けて情報統制を主張する始末だ。週刊誌も政府の圧力で事実を報道できず、業を煮やした天海は例によって奇抜な行動に出るのだった。

■副総理は単純な悪役設定らしく、人命より経済優先と、いかにも今どき言いそうなセリフを吐く。実はDプラン社と繋がっていて、その背後にはフィクサー渡老人の存在が、という妄想は妄想に終わりそうだな。ちなみに、渡老人が登場するなら、前にも書いた山崎努が適役だけど、敢えて寺尾聰なども提案したい。老けメイクで演じれば、まるで宇野重吉の再来。いまや宇野重吉よりも演技は上手いかもしれない。(実際は全部撮影済みだけどね!)

■どうでもいいけど、日本未来推進会議の議論がクラス会にしか見えないのが凄いよね。しかも、かなり偏差値低そうだし。杉本哲太が担任の先生ね。

■しかし、まあラストの衝撃で大いに盛り上がるので次回も楽しみですね!ひょっとして、「関東沈没」でシーズン1は終了して、シーズン2以降に続くのかなあ?いや、関東が沈没すれば実質的に日本が沈没するのと同じことだ、という差別的発想なのか?

第四話「関東沈没のはじまり」


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■週刊誌記者と示し合って関東沈没の情報をリークしたことが早くも明るみになって、天海氏は総理大臣によって日本未来推進会議からパージされます。まあ、当然ですよね。。。

■そもそも、内閣とか日本未来推進会議のスケール感が「生徒会」とか「クラス会」レベルにしか見えないというおままごと感がこのドラマの弱点というか、チャームポイントでしょう。原作に忠実に描ければ、脚本の橋本裕志も『運命の人』を書いちゃう人なんだけどね。それにしても、お話をコンパクトに刈り込み過ぎで、いち若手官僚が勝手にイキってリーダーぶって、国の命運を左右しているように見えますよね。流石に単純化しすぎですね!

■ラストは、大して揺れてもいないのに湾岸の高層ビル群が脆くも崩落してゆく謎のビジュアルで幕を下ろす。次回はなんと関東沈没後のお話になるようですよ。展開が早いね!

第五話「国土喪失と復活のとき」


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■関東(の湾岸地区)沈没はすでに終わっている(あっさり割愛!)そして、田所博士は「第二波は来ない!もう第二波は来ない!」と断言する。一方、日本未来推進会議を追われた天海氏は別れた妻子の収容された避難場所へ向かうが。

■これまで官僚組織の頭越しのトップダウン方式で関東沈没対策を画策してきた策士の天海氏だが、政府組織からパージされ、こんどは庶民の避難場所でボランティアに励むことで、ボトムアップの姿勢を学習することになる。という脚本構成のようだ。

■関東沈没の特撮スペクタクルはあっさりと割愛され、見せ場はそこじゃありませんよと表明する。ほんらい樋口真嗣の『日本沈没』も特撮シーン少なめで、同じ方針で制作する予定だったらしいので、今回はより徹底されているといえる。

■しかし、田所博士の軽さはやはりコメディの域で、1973年版の壮士風の面影は無い。第二波は来ないと断言した尻から、もっと大きな異変を察知するんだけど、科学的なギミックとかロジカルなサスペンスが盛られていないのは勿体ない気がするなあ。もっとサスペンスを!新藤兼人だって『地震列島』を書くときには、これはサスペンス映画ですと自認して作劇したんだからね。

第六話「抗えない日本沈没


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■日本未来推進会議に返り咲いて、一部沈没した首都の再生計画に燃える天海氏。だが、田所博士は海保のデータから地殻の各所で起こるスロースリップ現象を察知、巨大な第二波の到来を予見する。しかもそれは関東だけでなく日本列島全体の水没を意味した。。。

■ついに第二章が始動、いつもどおりの強引な策士ぶりを発揮する天海氏に、ついに里城先生から国会議員へ勧誘される始末。でもそれは彼の望むところだった。

■ところが、頼みの綱の田所博士の身辺には例のDプランニング社の胡散臭い噂が絡みつき、ついに東京地検強制捜査を受けることに。。。本作の田所博士はほとんど研究室から出ずに、ずっとディスプレイを睨んでますね。いまのところ日本沈没のメカニズムの地球物理学的な意味付けとしてはスロースリップ現象に絞り込まれていて、超巨大な地殻変動の理屈としてはいまいち説得力がない。ここのところ、もっと丁寧にリアルな理屈をお願いしたいところだなあ。

■そして消えては現れる謎のDプランニング社の影。きっとそこには渡老人の姿があるに違いないと推察する。でも、今どきのことだから、老人は老人でも、女性フィクサーかもしれない。その場合、草笛光子だったりしても、驚かないぞ。

第七話売国の正体」⇨「命をかけた駆け引き」


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■田所博士を逮捕させ、Dプランニング社に日本沈没の機密情報をリークして国外の土地を買い占めていたのは誰か?そもそも日本沈没説は本当なのか。そして、日本の優良企業の移転と引き換えに移民引受交渉にあたるに際して、アメリカと中国を量天秤にかける大胆な奇策(?)は奏功するのか?

■第二部日本沈没編は急展開、里城副総理も日本沈没の厳然たる事実をついに認める。一気に移民交渉が本格化するが、移民引受条件を釣り上げるために、中国とアメリカに同時交渉を持ちかける大胆不敵なというか、日本の身の丈に合わない強引な手法は当然ながら大きな波紋を呼ぶことに。

■そんなことして大丈夫なわけないよねと思っていたら、そのとおりになるから、ドラマ的には大変盛り上がり、面白い!でもあと2回で終了なんだね?本当に終わるの?樋口真嗣版の『日本沈没』と同様に、結局全部は沈みませんでしたという結末を予想するけど。

■ちなみに、渡老人は出ませんね。この展開では。そこは残念。そもそも、国家的、いや地球規模の災厄なのにドラマに登場するメンツが非常に限定的で、重要事項が片手に余るお知り合いたちだけで決められてゆくので、スケール感が町内会の寄り合いレベルなのは如何なものか。いやむしろ、そこが政権批判になっているのかな?

第八話「日本人大移民計画」


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■シリーズの当初から渡老人はいつ出てくるのかと問い続けていたのだが、ちゃんとその回答が用意された第八話。意外と原作に律儀なドラマですね。

■日本人移民計画のキモとなる中国への移民枠を巡って、暗礁に乗り上げてしまった国家間の交渉を一気に打開すべく里城副総理は中国の元国家主席に直談判する。この元国家主席こそが、渡老人なのだ。

■もちろん、名前も役柄も異なるけど、渡老人といえば車椅子、渡老人といえば介添の若い娘、そのイメージが忠実に再現されている。昔の映画版では島田正吾&角ゆり子、テレビ映画版では中村鴈治郎&麻里とも恵(阿川泰子)が演じて、特にさいとうたかおの劇画版での花枝のフルヌードは当時の少年たちの性徴を刺激したもの。ちなみに、劇画のこの名場面は吉田喜重の映画のある場面を下敷きにしているよね。

■ある意味で、日本民族の未来の運命を握るのが中国の元国家主席というのも色々と感慨深いものがあるが、もともと渡老人も清王朝の末裔だったはずだから、中国つながりで、渡老人のビジュアルイメージがちゃんと生かされているのだ。このあたりの趣向はニクい。日本の国難に対して、日本人は中国の存在感を絶対に無視できないという世知辛いリアルな現実と、悠久の歴史のロマン(?)が綯い交ぜに現前するのだ。

最終話「さよなら日本」


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■最終回は、もともと2話分として撮影されたものを、一本につなげてお贈りする。テレビ朝日の木曜ミステリー枠が2時間スペシャルかとおもったら、二本立てだったのと同じ趣向だね。

■日本人の海外脱出計画に目処がたったと思ったら、移民先で新型感染症が発生、日本人受け入れのストップが決定されるが、新型感染症は日本人起源でなはないことがわかり、日本の製薬会社が特効薬を研究、日本企業の身売りと並行した難民受け入れ交渉が加速することに。これが本来の第九話。

■ついに巨大な地殻変動が現実化し、富士山がいきなり噴火、日本沈没があっというまに水没してゆく。政府は北海道に脱出するが、田所博士は日本列島を日本海溝に引きずり込むプレートが千切れたお陰で、「日本沈没は止まるぞ…いや、止まった! 止まったんだ!」と宣言する。これが本来の第十話。

■新型感染症まで持ち出す荒業にある意味感心するし、本当に日本列島の沈没は始まるのか、大災害シーンは描かれるのかとおもいきや、富士山がなんの前触れもなく突然大噴火を始めるし、都市部はみるみる間に超スピードでズブズブと水没してゆく。その早いこと!特撮スペクタクルは見せない方向かと思えば、自衛隊機による本土脱出のサスペンスは離陸までを延々と引き伸ばして、CGたっぷりで描き出す。その割り切りの仕方はこだわりがなくて良いと思います。オリジナルの映画や小説に思い入れのあるわれわれロートルでは思いつかないことですね。全体に、思い切りの良さが新鮮な印象を与えた成功作だったと感じますよ、素直な気持ちで。

■ただ終始こじんまりとしたドラマで、政治的な駆け引きのポリティカル・フィクションの部分が特定の一握りのメンバーたちの活躍によって進むので、その意味では非常にご都合主義的に作られていたのが特徴だね。

■田所博士も見えを切りに出てきただけのようにも見える。関東は沈没するぞ!とか日本沈没は止まった!とか、科学的な考察というよりも、いちいち大声で見得を切ってドラマの節目を宣言する役だね。むしろ、科学者としての倫理観や社会的責任については、國村隼の演じた御用学者、世良教授の描き方に作者の真剣味が感じられた。このあたりの工夫も大きな見どころだった。

■最終的に北海道と九州の一部が沈没を免れたので、全世界に散ってジャパンタウンを構成した旧日本人難民たちが、世界中で迫害され、失われた本土を再建して再び日本に戻ろうとするシオニズム運動を第二部として描くつもりだろうか。前人未到日本沈没第二部が描ければ、それはそれで大したものだと思うけど、どうか。(完)

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