『レイコちゃんと蒲鉾工場』

レイコちゃんと蒲鉾工場 (光文社文庫)

レイコちゃんと蒲鉾工場 (光文社文庫)

■「かめくん」以来の北野勇作作品。”北野ワールド”と呼ぶべき独特のニュアンスを持つSFファンタジーワールドだが、一種のダークファンタジーとも言える。薄ぼんやりとした輪郭の曖昧な作品世界に、それでもなかなかハードなSF的な仕掛けが練り込まれ、SFとファンタジーとノスタルジーが混交した練り物世界が立ち現れる。
■そもそも、なぜ蒲鉾なのか?そこにはちゃんとSF的な回答が用意され、蒲鉾の超科学的展開が披露される。さらには蒲鉾のイメージをめぐって、奇想天外な妄想が連鎖反応を起こす。死なない兵士、モノリス、小劇団の舞台、こうしたイメージの連鎖は、北野勇作の独壇場で、単なる冗談に止まらず、世界観の根幹に組み込まれている。そこに北野勇作のユニークな作風が顕在しており、昭和30年代を連想させる懐旧的で幻想的な描写と、今の世界だけでなく記憶の世界をも曖昧模糊とした戦争状況が支配する不気味な世界認識が浮かび上がる。ゆるい脱力系SFの風を装いながら、その実、かなり無骨な小説である。
■個人的には「金管」のパートが好き。レイコちゃんと喇叭を吹く謎の動物の一時の交流の儚さを描いた秀逸なエピソードだ。なぜ喇叭なのかという謎もその後で解明され、なるほどそうかと膝を打ち、同時にざらついた切なさが舌に残る。ちょっと「かめくん」を想い出す瞬間だ。