『天才 勝新太郎』

天才 勝新太郎 (文春新書)

天才 勝新太郎 (文春新書)

■新書ということで論旨をかなり単純化した印象があるが、大映京都のスタッフへの聞き取りを中心として、不世出の俳優勝新の映画人生を一気に読ませる。中心は筆者が勝新にはまるキッカケとなったテレビ版の座頭市の部分で、その製作現場のありえないムチャぶりが堪能できる。特に、当時の撮影現場での打ち合わせを記録した録音テープが再現される部分は、勝新の天才ぶりと映画作家としてのある種の筋の良さを証明している。
大映京都撮影所は大映倒産後労組が管理していたので勝プロが安く使えたといったトリビアも興味津々で、勝新出世作「不知火検校」の実質的なキャメラは相坂操一ではなく、チーフ助手だった森田富士郎だったというのも、ビックリ。ヌーベルバーグに影響されて手持ちキャメラを試したというのも、なかなか。森田富士郎は「大魔神」の特撮で一気に名を上げた技術志向の強い理系のキャメラマンだが、勝新とか五社英雄といった普通の神経では付き合いきれない曲者監督と何故か相性がいい不思議な人なのだが、その人間性にも興味は尽きない。さすがに、もう新作は撮ってくれないだろうが。

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