さよなら丹波さん

 丹波哲郎がとうとう亡くなったそうだ。NHK大河ドラマの「義経」では人相が変わるほどに痩せ衰え、声も出ていなかったし、リメイク版の「日本沈没」でも写真での出演だけだったので、今年あたりが山場かと覚悟はしていたが、やはり現実となると辛いものがある。享年84歳。朝日新聞の記事はこちら
 我々の世代は物心ついた頃から映画やテレビに出まくっていた丹波哲郎の泰然自若たる大人の雰囲気と、有無を言わせぬ演説演技の異様な説得力に、大人の姿を学んでいたのだ。独特の胡散臭さと、圧倒的なダンディさが綯い交ぜになった、稀有の俳優であった。岸田森松田優作の夭逝と比べれば、大往生と言える年齢だが、いつまでも器量の大きな大人の男の姿を演じ続けてほしかった。昭和の名優がまたひとり逝ってしまった。取り返しのつかない何かが終わってゆく。
 「日本沈没」の山本首相と「ノストラダムスの大予言」の西山良玄の人間像は我々の世代の原体験であり、後に接することのできた「砂の器」、「事件」、「激動の昭和史・沖縄決戦」、「二百三高地」、「連合艦隊」、「大日本帝国」といった大作での丹波節に危うい陶酔感を経験することができたことは幸福な体験だった。(「人間革命」だって、観たいのだ!)
 丹波哲郎没するとも、丹波的なものを受け継ぎ、丹波的な”とらえどころの無い大物感”溢れる謎の大人になることを心に誓おう。なにかと世知辛い平成の世の中で、丹波的に悠々と生きてみせることが、丹波の子供たちである我々の使命であると心に刻もう。
 さよなら丹波さん。そしてありがとう。

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