「ハリウッドで勝て!」

ハリウッドで勝て! (新潮新書)

ハリウッドで勝て! (新潮新書)

 いまやハリウッドの映画プロデューサーに転進した一瀬隆重の半生を綴る新潮新書の新刊。1時間ほどで読了。日本映画界に喧嘩を売り続けて、とうとうハリウッドに本拠を移した映画業界の風雲児が本音をさらけ出す興味深い一冊。
 しかし、特に興味深いのは、80年代のマイナー映画から「帝都物語」を契機としてメジャーへ躍り出るあたりの道筋が明かされるあたりで、というのも、その頃に一瀬隆重が絡んだ8㎜や「星くず兄弟の伝説」、「孔雀王」といった今や誰も見向きもしない異色作は、当時ほとんど興味深く観た映画ばかりだから。「孔雀王」の特撮シーンの実質的な監督は樋口真嗣が担当したという証言も貴重。この映画、特撮は部分的にかなりよくできたシーンがあるのだが、ラストに登場する大ボスがなぜかバート・I・ゴードンも恐れ入る単なる巨大オヤジという底抜け映画で、今ではほとんど記憶する人もいないだろう。
 ただ、一瀬隆重の丸出しの上昇志向は日本では好まれないだろう。ホリエモンの例を出すまでも無く、出る杭を打たずにおかない日本人の心性はそう容易く払拭されるものではあるまい。その心性は何らかの必然性を帯びて生き残っているのだから。
 日本だけをマーケットとして、大当たりはしないがそこそこの利益をコンスタントに出して、商売として継続的に成立するというスキームは決して、全否定される必要は無く、ハリウッド的に全世界を相手にする大型映画を日本映画界が作らなければならないという必然性は薄い。そうしたい一部の人はそうすればいいし、日本という狭いなりにそれなりの規模があるマーケットに専念して、小規模の良作を誠実に生み出してゆくことは重要なことなのだ。
 ただ、確実に問題なのは、小規模の映画がシネコンに流通しないという東宝やテレビ局によるシネコンの寡占状態だ。これを打破して、弱小の独立系映画でも出来がよければ拡大公開が可能になれば、邦画の底も、観客の資質もかなり上げられるのではないかと思うのだが。

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