ワンナイト・イン・モンコック ★★★☆

旺角黒夜
2004 スコープサイズ 110分
DVD 

ワンナイト イン モンコック [DVD] 旺角の夜の街でチンピラの小競り合いから二大組織の抗争が勃発、組織のボスから依頼を受けた携帯電話屋は、中国の貧村から若い鉄砲玉(ダニエル・ウー)を呼び寄せる。鉄砲玉が安宿でヤクザに脅されていた娼婦(セシリア・チョン)を助けたことから報復を避けるため二人の逃走が始まる。やがて警察にも睨まれた二人は逃げ切ることができるのか・・・
 ジョニー・トーの諸作品とは、演出も撮影のタッチも大幅に異なるが、むしろこちらのほうが正統派のフィルム・ノワールだろう。映像表現としては、ハイコントラストで闇を生かした撮影設計は確かにフィルム・ノワール風だが、内容的にはむしろ東映のチンピラ映画に近い。
 中国の貧しい村から香港で最も人口密度が高いと謂われる下町に流れ込んできて、社会の最底辺で生きる若者たちの青春をアクション映画として描き出す構想だが、主役のダニエル・ウーセシリア・チョンが、中国の田舎も村からポッと出の若者にしてはあまりに美形過ぎる時点で、リアリティは放棄し、あくまでスター映画の姿勢を主張している。そのことが、ラストの哀切な幕切れを弱体化しているように見える。香港の夜の街を捉えたロケ撮影の生々しさと映像的な造形美は逸品で、ジョニー・トーの「PTU」のクールな情景などと比べて観るのも興味深い。
 所謂香港映画風のカンフーアクションや派手な銃撃戦は無く、その点ではジョニー・トーよりも地味な構えだが、作劇の点では東映映画やVシネマのなかにもっとよくできた作品があるだろう。見目麗しい”スター”の輝きでは香港映画にかなわないが、そのかわり、潰されてゆく青春の痛みに注ぐ視線の鋭さでは負けてはいないはずだ。

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