鉄人28号 ★★★

鉄人28号
2005 ヴィスタサイズ 114分
レンタルDVD
原作■横山光輝 脚本■斉藤ひろし山田耕大
撮影■山本英夫 照明■小野 晃
美術■小川富美夫 音楽■千住 明
視覚効果■松本 肇 
監督■冨樫 森


 物語自体はほとんど何も言うべきこともなく、今時の設定フェチなヲタクには到底受け入れられない緩々のSF(?)映画だが、これは特撮映画というよりも、「ごめん。」の冨樫森の子供映画として観るのが正解だろう。

 実際、寺田農のナレーションで幕を開け、薬師丸ひろ子と池松荘亮の家庭風景の描写が説得力ある長廻しでじっくりと描きこまれるあたりで、相米慎二を観て育った(?)世代は、もうおなか一杯になるだろう。相米が生きていて、間違って特撮映画を撮らされたとしたら、こんな映画になったに違いない。特撮映画でありながら蝉や虫の声などの効果音の演出にこだわったところも、冨樫森の作法が徹底されている。

 鉄人とともに、怪ロボットブラックオックスと戦うことになる池松荘亮の演技をしっかりと構築して、あせらず急がずにその成長の過程をフィルムに定着してゆく手際が、この映画の最大の見所で、特撮映画には似つかわしくないとも思われる清々しい長廻しのうまい場面がいくつもある。特に、旬の女優蒼井優との絡みが中盤以降の肝となる。

 特撮演出での問題点は敢えてピカピカの写実性を廃したアニメっぽい質感のCGでキャラクターを描きだしたところで、周りの情景をデジタル合成で丁寧に描きこんでいるあたりは松本肇らしい丁寧な仕事だが、キャラクターの違和感は如何ともしがたい。「鉄甲機ミカヅキ」のように素直にミニチュア撮影を行ったほうが確実に重量感は表現できただろう。ブラックオックスの東京タワー襲撃のシーンは、漫画的なシチュエーションを、かなり高度なエフェクトで見せた見せ場だが、クライマックスの両雄の決着には工夫が無さすぎだろう。敢えて、鉄拳のどつきあいで押し通したのは演出意図だったはずだが、単調の誹りを免れないだろう。

 あくまで冨樫森の映画を観るつもりで臨むことが求められる映画だが、それほど悪い映画ではないはずだ。

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