JARHEAD
2005 スコープサイズ 123分
ユナイテッドシネマズ大津(SC5)
実際に90年の湾岸戦争に兵士として参加したアメリカ人青年が記したノンフィクション『ジャーヘッド アメリカ海兵隊員の告白』をサム・メンデス監督が映画化した実録戦場ドラマ・・・だが、「メディアが暴けなかった湾岸戦争の真実が、ここにある」という惹句は実は正確ではない。実録の実録たる由縁が、戦争の非情さや戦争のメカニズム、アメリカ社会の矛盾といったものを暴き出す映画では決してなく、そんなこととは縁遠い普通の下層階級の青年が海兵隊員として戦場に送り込まれ、そのなかで何時訪れるか知れない実際の戦闘を待ち続けるという、青春映画であるからだ。
実際、「ミュンヘン」や「ロード・オブ・ウォー」といった映画との大きな違いは、戦場に送り込まれた青年たちの等身大の、つまり大人の目から見ればくだらないことに明け暮れる無為な時間の累積を、アメリカの青春のひとつの典型として捉えた視点のユニークさにあるだろう。そのことは、砂漠地帯に派遣されてからの時間数が頻繁に字幕で挿入されることで強調される。
ただ、彼らの青春の姿の、ある意味での”貧しさ”を等身大で描き出し、アメリカへ一種の批判として作用させようとする意図は必ずしも成功していないように見える。クライマックスでのピーター・サースガードの煩悶が青春映画としての肝になるはずなのだが、全体を通じて見ると、訴求力を欠くのだ。
名撮影監督コンラッド・L・ホール亡き後、ロジャー・ディーキンスと組んだサム・メンデスの選択眼はさすが。色彩を抑えて、砂の広がりと大空の境界を曖昧に溶け込ませた映像設計が戦争を幻想世界に転化する。ILMが腕を振るった油田が炎上する情景のリアリティから生じる幻想的な美しさと不気味さは特筆に価する。