デビルマン ★★★☆

デビルマン [DVD]デビルマン 116分
2004 ヴィスタサイズ
レンタルDVD
原作■永井 豪 脚本■那須真知子
撮影■さのてつろう 照明■大久保武志
美術■和田 洋 音楽■安川午朗
特撮監督、VFXプロデューサー■佛田 洋
CGプロデューサー■氷見武士 CGスーパーバイザー■野口光一
監督■那須博之


 ネット上では希にみる酷評の嵐だが、ビデオ屋ではいつも貸し出し中でなかなか見られなかった話題作をやっと観ることができた。やはり映画は世評に惑わされず自分の目で確かめることが必要だ。駄作どころか、ちゃんと筋の通った力作であり意欲作である。那須博之の準遺作としても、決して恥ずべき作品ではない。
 たしかに、聞いた事も無いアイドルユニットの演技は今時珍しいほどに学芸会的で、ところどころでは失笑を禁じえないが、なによりも無残なのは半裸姿の貧相さだ。これはこの映画のもっとも大きな瑕疵だろう。他にも意味不明な特別出演は”ナゼ?”の嵐を惹起するが、それぞれその場限りの(謎の)趣向なので、映画の流れ自体には大きな傷を残しはしない。
 むしろ、そうした意味不明な共演者たちのなかで、那須博之は酒井彩菜や渋谷飛鳥の存在にすべてを賭けているように見える。そしてこの2人がこの映画の真の主役であることは、那須真知子の脚本の構成でも明白だろう。デビルマンとサタンの対立と、渋谷飛鳥演じるミーコと「ススムちゃん大ショック」の少年のエピソードを対比させた脚本構成は那須真知子らしい骨太な料理法で、なにより東映映画のエッセンスが見事に継承されていることに感動する。整合性がどうとか、演技の質が何だとか、そんな些細な了見の狭いケチがいくらつこうが、東映映画のしぶとさは死に絶えることはないのだ。那須夫妻の主張はそれに尽きるのではないか。
 那須博之の演出も、往年の力強い空間把握は希薄だが、意味不明な外野からの要請事項を受け入れながら、自分の信じる映画をぶれなく仕上げており、特に牧村家襲撃のクライマックスを真正面から描ききったことは、この種類の映画としては画期的といえるだろう。バットマンスパイダーマンが洗練されたハリウッドスタイルで婉曲に表現する部分を、あくまでエゲツなく描ききる体力は香港映画の独壇場と思っていたが、日本映画にも、まだそんな野蛮さが残されていたことに驚く。
 この映画は、東映本体でははく、東映アニメーションの製作によるT-Visualの第1作である。VFXは、旧来のミニチュア特撮とCGの併せ技だが、CGの比重が大きく、やはり東映アニメーションが主導している印象だ。CGの質感はリアル志向ではなく、アクションのケレン味東映アニメーションの伝統力で強調する演出意図で、その狙いは決して間違ってはいないだろう。実際CGパートには、いくつも完成度の高いカットが見られる。那須博之としては、あくまで「地獄堂霊界通信」のような肉弾のどつきあいを見せたかったのだろうが。
 壊滅した世界に最後の希望となった生き残りが佇む場面は、これまで何本もの映画で目にした、見慣れたはずの情景のはずだが、酒井彩菜から渋谷飛鳥へと受け継がれるものに、思わず熱いものがこみ上げてくる。いくらかピントがずれていても、狙いが滑っていても、それでも映画がデッドヒートする、その熱さに賭けた那須博之の映画魂は、ここでも見失われてはいないのだ。

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