『母』

基本情報


1963/ST
(2004/12/24 レンタルDVD)
脚本/新藤兼人
撮影/黒田清巳 照明/沖 茂
美術/新藤兼人 音楽/林 光
監督/新藤兼人

感想(旧HPより転載)

 二度の結婚に失敗した主人公(乙羽信子)は脳腫瘍の息子に岡山病院で手術を受けさせるが、病気は再発し、余命は僅かと告げられる。最初の手術費用を出してもらう条件で結婚していた在日韓国人の夫(殿山泰司)は好人物で彼女を労わるが、主人公の母(杉村春子)は運命と諦めるしかないと金を貸そうともしない。一方で彼女を慕っていた弟(高橋幸治)はキャバレーでの痴話喧嘩で殺されてしまう・・・・

 父親、弟、息子の3人の男の死と原爆ドームに象徴される人類の備える拭い去れない暴力への衝動、そして母の持つ性の力強さをない交ぜにして、難病もののフレームに当てはめた意欲作で、予想以上の力作である。単なる母性賛美でも難病ものでもなく、種としての人間の営みを丸ごと乙羽信子に体現させようとした新藤兼人ならではの野心作だ。

 乙羽信子杉村春子の掛け合いの壮絶な演技戦と台詞のリアリティが圧巻で、この当時の日本人の命やお金に対する感情をかなり赤裸々に証言しているのではないかと思われる。そうした資料的な意味でも価値のある映画ではないか。こうしたリアルな人間像を描き出しながら、その背景に原爆ドームを配置し、狂気の予兆ともいえる幻想シーンをちりばめ、人類そのものの生態を俯瞰しようとする構想の大きさと無謀さに感動する。

 広島の川べりの掘っ立て小屋のロケも抜群で、武智鉄二が演じる小川真由美の情夫のヤクザのリアルなやばさも見もの。子役時代の頭師佳孝のはまり方も怖いくらいだ。

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