『いきすだま 生霊』

生霊(いきすだま)
2001/ビスタサイズ
(2001/12/13 レンタルV)
原作/ささやななえこ 脚本/尾崎将也,山口セツ
撮影/田口晴久 照明/井上幸男
美術/西村 徹 音楽/吉良知彦
操演/岸浦秀一 特殊メイク/若狭新一 視覚効果/橋本満明
監督/池田敏春

感想(旧HPより転載)

 ささやななえ(こ)の折り紙付きの傑作怪奇マンガをあの池田敏春が映画化するという夢のような企画はVシネマレベルの予算規模にも関わらず、古典的怪奇映画の秀作として完成されている。

 第一話「生霊」は三輪ひとみの生き霊がストーカーとなって美形男子高校生を追いつめて破滅させてしまうまでを日本の古典的な怪談映画の演出技術を意識的に援用して描いたなかなかの佳作。原作コミックの見せ場をそのコマ割りまで相当忠実に再現した演出は原作ファンを重視した結果だろうが、そうした部分は怪奇映画としてはむしろ低調で、逆に携帯電話を使って三輪ひとみの本体とその生き霊をカットバックで描き出して怪奇映画的抒情性を豊かなサスペンスで彩った白昼の通り雨のシーンが池田敏春の本領発揮というべき名シーンとなっており、本編の白眉といえるだろう。真昼の通り雨の中に三輪ひとみを配することで異空間を現出させる力技は、「赤い陰画」「くれないものがたり」の池田敏春の面目躍如たるものがあり、痛快でさえある。

 怖いとか怖くないとかいった議論を超越したところに三輪ひとみの独壇場といえる存在感の特異性が発揮され、もはやクリストファー・リーとかピーター・カッシング、日本では西村晃岸田森といった怪奇スターの域に達しようとしているといったら、言い過ぎか。バーバラ・スチールあたりに比すのが順当だろう。

 続く第二話「空ほ石の」は団地に引っ越してきた一家を襲う押入の中に棲む怪異を、心霊実話テイストの話術でじわじわと盛り立ててゆく部分はなかなか秀逸なのだが、最後になって美術装置の貧弱さや怪異描写の未熟さが露呈して、少々残念な結果に終わってしまう。橋本満明、若狭新一,岸浦秀一といった特撮業界の強者スタッフを揃えても、本編美術の予算的限界がを十分に補うことはできていない。

 閉めたはずの押入がいつの間にか開いているというエピソードは原作どおりとはいえ抜群だし、ひとりで家に残されている主人公の母親が最初に心身に異常を来すという出だしの気味悪さも今や定石ながら堂に入った演出ぶりだっただけに、詰めの甘さが惜しまれる。もっとも、これも原作マンガを忠実になぞろうとしたために生じた限界という気がしないでもないのだが。

 実際、ささやななえこの原作マンガの映画化は誰もが狙った企画だったはずなので、Vシネマとしてではなく、もっと潤沢な予算を投入して東宝の冬のホラー路線あたりに正式な劇場映画として出すべきだったと思う。まさに最近の鶴田法男や中田秀夫なら確実に傑作に仕上げることができたはずの素材なので、勿体ない気がするのだ。

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