秋深き ★★★☆

秋深き
2008 ヴィスタサイズ 105分
MOVIX京都(SC8)
原作■織田作之助 脚本■西岡琢也
撮影■水谷奨 照明■ 南所登
美術■山崎博 音楽■本多俊之
視覚効果■杉木信章
監督■池田敏春

織田作之助の「秋深き」と「競馬」の2短編を合体させて西岡琢也が脚本化した池田敏春の久しぶりの新作。セクシーなホステス(佐藤江梨子)と結婚した教師(八嶋智人)は嫉妬に駆られて、彼女が以前に付き合っていた男の影を探るが、彼女は乳癌におかされていたという、大阪は生玉近辺を舞台とした浪華映画。ロケ中心で、HDカム撮影の超低予算映画だが、「夫婦善哉」を意識したなかなかの佳作。決してリアルな物語ではなく、現代の大阪の風景のなかで、滅び去った(かもしれない)浪華人情の世界を掬い上げようとする。

■原作短編は未読なので正確ではないかもしれないが、ベテラン西岡琢也の脚色が出色で、近松の生玉心中なども織り込んだ趣向の立て方はさすがに芸がある。意表を突くガソリンの件とか佐藤浩市と八嶋の絡みの収拾の仕方は簡潔によくできているし、最後にはしんみりと女の情の深さを見せてほろりとさせる。大人の夫婦が観にいって、自然とせつない気持ちに包まれるいい映画である。

池田敏春の映画を映画館で観るのは、と思い返してみると、なんと初めてかもしれない。これまで多数観てきた池田敏春の映画はすべてレンタルビデオで観ていたということか!まあ、ロマンポルノとかVシネマが主戦場だったから仕方ない面もあるが、封切りの劇場で観るのが今回初めてだったとは、感慨深いものがあるよ。演出についても、昔に比べてカッティングが細かく、非常にサクサクとリズミカルに展開してゆくのは、往年の黄金時代の日本映画の演出作法を踏襲したものだろう。長回しも要所で用いられるし、クライマックスの見せ場は淀川べりで、八嶋と佐藤が浅瀬でジャブジャブして嬉しそうなのが、池田印。

八嶋智人の配役はベストではないだろうが、狙いとしては「夫婦善哉」の森繁久彌の軽みであろう。ガソリンを飲む、飲まないの押し問答のシーンなどいかにも、昔の森繁風で、その意味では悪くない。佐藤江梨子は例によって、超ミニなど着て、どんだけ足長いのかと愉しませてくれるのだが、今回はオッパイが主役。といっても、ヌードなどありませんから、お好きな方々はちょっとがっかりするかもしれないが、大人の娯楽映画としては満点に近い出来栄えである。

■いかにもデジタルビデオ撮影風の緑の発色の悪さや、ナイトシーンで黒味に締りが無く、というか全面薄灰色の世界で、暗みがないためナイトシーンにすら見えない酷いカットがあり、キャメラは褒められたものではない。こうした映画こそ、フィルムでしっとりと艶やかに見せて欲しいものだが。

■今年は滝田洋二郎が「おくりびと」を撮り、中原俊が「落語娘」を撮ったかと思うと、「櫻の園」をセルフリメイクし、池田敏春同様に80年代に新鋭として大活躍したベテラン監督たちが、年季を感じさせる非常に良い映画を連発しているのは、心強い限りだ。しかし、もう少し予算を与えてやってほしいよ。

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